今季のGPシリーズ欠場を決断した羽生結弦 (c)朝日新聞社
今季のGPシリーズ欠場を決断した羽生結弦 (c)朝日新聞社

 羽生結弦が男子で初めてジュニア・シニアにおける6つの主要国際大会全制覇を達成した昨季の四大陸選手権(2月、韓国)は、新型コロナウイルスが感染拡大傾向にある中、厳戒態勢で行われた。優勝者としてインタビューを受けた羽生は、次のように語っている。

「僕ら自身もすごくいろいろ注意したり、運営の方々もすごく注意していたりしたので、僕らもすごく緊張しましたし……でもこうやって素晴らしい試合ができたのは、(観客の)皆さんの配慮だとか、スタッフの皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」

 栄冠を勝ち取った喜びと同時に羽生が感じていたのは、会場を覆っていた異様な雰囲気と、コロナウイルスへの対策をしながら試合を行うことの難しさだった。

 昨季はグランプリ(GP)ファイナルでネイサン・チェンに、全日本選手権で宇野昌磨に敗れ、苦しいシーズンを過ごしてきた羽生だが、プログラムを平昌五輪シーズンのものに戻して臨んだ四大陸選手権で優勝し、世界選手権へいい流れで臨もうとしていた。しかし、急速に感染拡大する新型コロナウイルスの影響で世界選手権は中止になる。

「中止になってしまったことは残念ではありますが、選手のみならず、見に来られる皆さまや大会運営スタッフの方々への感染拡大のリスクが、少しでも減ったことに安堵する気持ちもあります」(羽生のコメント)

 シーズンが唐突に終わり、コロナ禍が深刻さを増す中、羽生は折にふれてメッセージを発信してきた。緊急事態宣言が発出されていた4月17日には、日本オリンピック委員会のツイッター上で、ウイルスと闘う人々に語りかけている。

「真っ暗闇なトンネルの中で、希望の光を見いだすことは、とても難しいと思います。でも、3・11の時の夜空のように、真っ暗だからこそ見える光があると信じています」

 また5月6日には、日本スケート連盟のツイッター上に、東日本大震災以降滑ってきた数々のプログラムを室内で踊る羽生の動画が公開された。震災で被災し練習拠点を失った羽生は、そこから立ち上がって五輪連覇を成し遂げている。前述したメッセージの中で、闘病中の人が感じる恐怖は「想像を絶する」としながらも、その中でも希望を失わないでほしい、という羽生の思いがそこにはあった。コロナ禍において羽生は、一貫して状況を真正面から受け止め、考え抜いて発信してきたのだ。

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垣間見えた羽生の“配慮”