新種に関する話が書かれている今回紹介した本(左)と筆者の本 (c)澤井悦郎
新種に関する話が書かれている今回紹介した本(左)と筆者の本 (c)澤井悦郎
澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」(https://manboumuseum.com/)というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)で情報発信・収集しつつ、なんとかマンボウ研究しながら生活できないかとファンサイト(https://fantia.jp/fanclubs/26407)で個人や企業からの支援を募っている。
澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」(https://manboumuseum.com/)というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)で情報発信・収集しつつ、なんとかマンボウ研究しながら生活できないかとファンサイト(https://fantia.jp/fanclubs/26407)で個人や企業からの支援を募っている。

 私は野生のマンボウ研究者である。

【写真:江の島水族館に実在した「巨大なホルマリン標本」】

 前回、筆者運営の「マンボウ類の総合サイト『マンボウなんでも博物館』のグランドオープン」を取り上げて紹介したところ、大変好評で多くの人に遊びに来て頂いた。まだサイトを見ていない方は是非遊びに来てほしい。

 今回は大学生以上向けの新書『新種の発見:見つけ、名づけ、系統づける動物分類学』(以下、本書)を拝読し共感点が高かったので、私見も交えて分類学について少し語りたい。

■ポケモンにも貢献する分類学者

 分類学を一言で言うと、「生物の特徴を整理し、各生物に名前を付ける学問」である。生物の形態はもちろんのこと、種を識別できれば、ニオイや鳴き声なども分類形質になり得る。分類学の一番の花形は世間をにぎわせる新種発見のニュースだが、そこに至るまでの過程は結構地味だ。標本観察と文献調査の繰り返しで、新種を発見しても公表されるのはだいたい数年後になる。私も本書も「そもそも分類学は今すぐに何かの役に立つことを目的とした学問ではない」ことを強調する。分類学の目指すところはすべての生物に名前を与え、人類が認知できるようにすること。いわば、未来のために今を記録する学問だ。

 しかし、気付かないだけで我々は物凄く分類学の恩恵を受けている。例えば、多くの人が子どもの頃に一度は心を奪われたであろう生き物図鑑だ。生き物の名前、形をわかりやすくまとめている図鑑は、分類学者の研究成果なくしてはあり得ない。また、タイトルで釣られた方も多いと思うが、分類学者は『ポケットモンスター』や『けものフレンズ』などゲームにも大きく貢献している。多くのキャラクターのモチーフは分類学者が今まで発見してきた生物やその名前が元にされている(例えばポケモンのママンボウなど)。このように、「生物を認知する」という基礎かつ重要な分類学なくして、生物については語れないのである。

■新種はただの仮説にすぎない

 新種は今まで誰も見たことのなかった奇妙な生物の発見というイメージを一般的に持たれるが、実際は鰭の長さが違うなど地味なものが多く、新種は意外に身近に潜んでいたりする。私の研究チームが発見した新種カクレマンボウもパッと見では既存のマンボウ属の種とどう違うのかはわからない人が多いことだろう。

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