そうした張り詰めた緊張の糸が、前出の飲食店経営の男性のように、結果的に自分たちを苦しめてしまったのかもしれない。今回の陽性者確認は、ある意味でその緊張を緩和したとも言える。以前まで盛岡市に住んでいた都内の会社員男性(20代)はこう漏らす。

「岩手県は陽性患者0人ということで、『自分がウイルスを持ち込んではいけない』と、この半年間は遊びに行くことを我慢してきました。それがなくなったので、正直『そろそろ行ってもいいかな』と心が揺らいでいます。もちろん、不要不急の遠出は避けるべきなのでしょうが…」

 政府が進める「Go Toトラベル」も始まっている。今後、岩手県外から人の往来が増える可能性はあるだろう。だが、言うまでもなく油断は禁物だ。

 感染制御学に詳しい東京医療保健大学の菅原えりさ教授は、こう呼びかける。

「いまやどの地域にいても感染のリスクはあります。しかし、そのような状況でも経済を維持していかなければいけない。遠出を控える人がいる一方で、Go Toトラベルなどを含め、『県をまたいだ移動』をする人もいるでしょう。一般的に、地方は都市部よりも医療体制が脆弱だと言われています。『移動先で感染を拡げない』ということを引き続き徹底してほしい」

 適度な緊張感を持って、この苦難を乗り越えたい。(AERA dot.編集部/井上啓太)