「別れよう」

 5月末、彼の口から発せられた突然の言葉にも、A子さんは食い下がる気力がなかった。「仕方ないかな」と別れ話を受け入れた。

 前のめりだった彼の気持ちに急激な変化が表れた理由もわかる。イタリアではこの数日前に本格的なロックダウンが緩和され、電話越しの彼は「久しぶりに友達と会った」と楽しそうに語っていた。

「ロックダウン中は、家族としか話せなかった。久しぶりに地元の仲間と会って、やっぱり安心したのだと思います。それに彼は、友達や家族を大事にするタイプの人。こんな状況では、家族や友人と離れてまで日本に暮らすイメージはもてないのも当然です。気持ちが保てなくなるのも仕方ないかなと思います」(A子さん)

 日本に来たところで、「うまくいかない」という予感はあった。コロナの影響で、A子さんも収入が2割減った。働き口のない彼を養いながらではとても生活が立ち行かない。

「(来たとしても)家賃が払えない、飲みに行くお金もない、服も買えない。きっと我慢の連続だったと思う。愛はお金じゃないと言うけれど、最低限暮らせるお金がないと、人間関係もギスギスしてしまう。これで無理やり頑張って暮らしていたら、お互いすり減って、もっと悲惨な別れ方をしていたかも」(A子さん)

 入籍して3カ月半、一度も会わずに離婚することになった。離婚届もリモートだ。

「一緒にいるために、一生懸命やれることはやりました。人と人の縁は、めぐりあわせとタイミング。それが合わなかったなら仕方がない。『私と彼はきっと、そういう運命だったんだな』と思うしかありません」(A子さん)

 4年間一緒にいて、たくさんの時間を共有し、遠距離恋愛のさまざまな苦難も乗り越えてきた。それだけに、傷はまだ癒えていない。今は友人と飲み明かして、ふさいだ気分を発散している。

「まさか本当に、結婚から一度も会わずにバツが付くなんて。でもいつか、この『まさか』を笑い飛ばせていればいいな」

(AERAdot.編集部/飯塚大和)