■基準を自分に設定して快適に働く

 では、どうすれば職場をよくすることができるのか。「簡易生活」にひとつのヒントがあるかもしれません。

「簡易生活」とは、明治時代の書籍や雑誌にしばしば登場する言葉です。明確な定義があるわけではないのですが、ざっくりと表現すると、「面倒なことを生活から排除して、自分が快適な生活を追求する」姿勢ということになるでしょう。

 明治時代の文豪にも実践者は多く、訪問客の多さに悩んでいた夏目漱石は、面会日を木曜日に決め、それが有名な「木曜会」となりました。坂口安吾は、巨大なポケットを付けた「安吾服」を考案し、荷物の単純化を試みました。

 簡易生活では、決断も簡易にすべきだとされています。思い付いた時にチャレンジし、失敗したら改める。漱石の「木曜会」は長く続きましたが、安吾は「安吾服」にすぐ飽きてしまい封印しています。

 簡易生活には「好きなことを好きなときにする」という考え方もあります。ですが職場では、どうしても周りの目が気になってしまいます。上司の評価はどうか、会議でこんな発言をしたらどう思われるか……。そうやって、評価基準が「他人」になることで「好きなように」行動するのが難しくなります。

 でも、究極的にいえば他人のことなんてわからないのですから、簡易に「自分本位」にいけばいいのではないでしょうか。自分の仕事を楽にするためには、どうすればいいかを考え、仕事の目標を自分が気持ちいいと思えるものにすればいいんです。

 僕の場合、使う人が快適と思えるシステムを構築できればなによりと思って仕事をしています。眠くて働けそうにないのであれば、多少の遅刻をしても睡眠を確保する。それで自分が気持ちよく仕事ができて、時間内にタスクを終了できればそれで満足です。時間給で働いていますので、会社にとっても人件費が減りメリットしかありません。

 もちろん、職場によっては「自分」を基準にするのが難しい場合もあるかもしれません。しかし、それでも簡易に自分中心を貫いて、それが会社にとっての利益につながることを示せば、周囲はいつか「そういう人」だといい意味で諦めてくれます。

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過去の簡易生活者たちは…