ジャーナリストの青木理氏(C)朝日新聞社
ジャーナリストの青木理氏(C)朝日新聞社

 日本中を驚かせた新聞記者らと東京高検の黒川弘務検事長(63)の「賭けマージャン」疑惑。黒川検事長はすでに辞表を提出したが、一緒にマージャンをした新聞記者らの行動もそしりは免れまい。たとえ取材活動の一環だとしても、コロナ禍の非常事態下で「渦中の人物」とマージャンに興じる記者の行動原理とはどういうものなのか。記者と権力者との距離感は常に問題視されてきたが、食卓ではなく「雀卓」を囲むことで権力者の懐に入り込むのは、一般的な記者の手法なのだろうか。元共同通信の公安担当として多くの権力者と対峙してきたジャーナリストの青木理氏に、権力者に食い込む「記者の作法」と「距離の取り方」について聞いた。

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――夜討ち、朝駆けも含めて、記者が情報を取るために取材対象者の懐に入り込む手法はいくつかあると思います。そのなかで、今回問題となった「マージャン」についてはどう思われますか。

青木氏 取材相手とざっくばらんに話をし、少しでも本音を聞き出すため、マージャンや酒席の場を利用する取材手法は昔からあったし、僕も共同通信の記者時代にはやったことがあります。緊急事態宣言下だったという問題などは別にありますが、取材対象とマージャンや会食すること自体は否定しません。もちろん、その際に場所代や飲食費の支払いをきっちりとし、互いに利益供与などを受けないことは大前提になりますが。

 そして最も大事なのは、そのような場で話を聞くのは一体なんのためなのか、誰のためなのかということです。記者の役割はまず事実を早く広く伝えること、そして、あらゆる分野の権力者や強者に監視の眼を注ぎ込むことです。これがメディアとジャーナリズムの根源的な役割であって、ならば安倍政権の「お気に入り」とされ、違法、あるいは脱法的な手段まで弄して検事総長に抜擢されようとしている人物が本音ではどう考えているのか、背後には政権のどのような思惑があり、どのような綱引きがあったのか、少しでも聞き出して記事にするのが仕事でしょう。

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他の記者もマージャンに誘われていた