司会進行を務める共同代表があいさつを述べた後、僧侶が遺影の前に座り、お経を唱え始める。

「通常は周りの目がありますが、(今回は)自室というプライベートな空間にいながら故人をしのぶ状況。独特でしたが、お経に耳を傾けているうちに、自分は葬儀に参加しているのだという実感がどんどん強くなりました」

 会場にいるのは数人のスタッフのみだが、このとき、オンライン上での参列者は200人を超えていた。中学時代の同級生や、会社の元同僚など、コミュニティーはバラバラだ。

 YouTube上のため、チャットもできる。自然発生的に、「早すぎて信じられない」「残念」など故人に対するお悔やみの言葉が次々と書き込まれていく。旧友との楽しい思い出話を、長文で書き込む人もいた。

 30分間のお経が終わると、最後に主催者が弔辞を述べ、葬儀はここでいったん終了した。

 主催した赤津慧さん(29)は、故人と映像制作会社を創設した盟友。「オンライン」でも葬儀を行いたかった理由をこう話す。

「故人は、本来なら200~300人が集まるような影響力のある人です。身内だけではなく、より多くの人に故人を弔ってほしかった。式ができないと、死を実感できなかったり、受け止められない人もいると思う。だからこそ、『社葬』として故人を送り出したかった」

 遺族には「(故人が)喜ぶから」と説明し、快諾してもらえた。友人にも「オンライン葬儀」の案内を拡散してもらうなどの協力を得たという。

 実は、この葬儀には「続き」があった。通常の葬儀と同じく、「精進落とし(会食)」もオンラインで行われたのだ。

 精進落としは、WEB会議システム「Zoom」が使われた。主催者があらかじめ「取引先」や「職場の元同僚」など、コミュニティー別にセッティング。そのやりとりがYouTube上で限定配信される仕組みだ。

 前出の男性は「取引先」のメンバーとして、6人で「オンライン精進落とし」に参加。会食といえども、もちろん自室だ。パソコンの前にデリバリーで注文した1人前のすし、それと缶ビールを置いた。

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