Zoomを見ながら、仲間たちと故人の思い出話に花を咲かせた。会社を立ち上げたころの苦労話や、仕事での功績、プライベートで行った海外旅行の話など。故人にまつわるエピソードが次々と出てきた。

 通常と違ったのは、「他者の目」を意識せざるを得なかったこと。会話の様子はYouTubeで配信されていたため、大勢の「参列者」たちが眺めているからだ。遺族も見ていると聞いていた。ほかの5人にも、その感覚はあったのだろう。酒が入ってもくだけた感じにはならず、「オフィシャル」な雰囲気と程よい節度を保ったまま、30分で終了した。

 男性はオンライン葬儀に「参加してよかった」と振り返る。

「これも葬儀の一つの形としてアリだと思いました。訃報だけだったら、本当に死んでしまったのだという実感が少なかったと思う。直接の対面はかなわなかったけれど、やる前よりは実感がわきましたから。主催者側も苦労があったと思う。通常の葬儀であれば段取りがわかってイメージが付くけど、ゼロからなので大変だったはず。よくやってくれたという気持ちです」

 一方で、こうも言う。

「(故人は)30代と若かったため、参列者も30代、40代が中心だった。YouTube、メッセンジャー、Zoomなど、今どきのアイテムを総動員している。参列者に高齢者が多かったら、実現しにくかったのではないか」

 コロナ禍の影響を受け、4月からオンライン葬儀のサービスを始める民間企業が次々と現れている。オンラインの特性を生かし、「香典」をカード決済できたり、「お焼香」ボタンを押して画面越しに線香をあげたりすることができるなど、各社が斬新なシステムを発案している。

『すごい葬式』(朝日新書)の著者で高千穂大学人間科学部の小向敦子教授は、「授業も飲み会もあらゆるものがオンラインなっており、葬式も例外ではない」と話す。

 小向教授によると、葬儀を取り巻く状況は時代によって変化しており、今がその「転換点」という。バブル期には「豪華絢爛葬」として費用が300万を超える葬式が多数行われていたが、デフレ到来を機にコスト軽減の流れが加速。今では10万円以内で抑えるパッケージも多い。「簡素化」「コスト軽減」が重要視されることでセレモニー的な要素は薄れ、近親者だけで執り行う「地味葬」や、荼毘に付すだけの葬儀も増えてきた。

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オンライン葬儀は「個性」が出せる