昨年末の『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイの駒場(左)は確かにムキムキな二の腕(c)朝日新聞社
昨年末の『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイの駒場(左)は確かにムキムキな二の腕(c)朝日新聞社

 昨年末の『M-1グランプリ』で優勝したミルクボーイと、今年3月に行われた『R-1ぐらんぷり』で優勝したマヂカルラブリー野田クリスタルには、世間であまり意識されていない共通点がある。それは、両者とも体を異常に鍛えている「筋肉芸人」であるということだ。

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 野田はマヂカルラブリーというコンビを結成した当初はスマートな体型だったのだが、ある時期から筋肉を鍛え始めた。2017年に『M-1グランプリ』の決勝に進んだ際には審査員に酷評され、何とか巻き返そうと服を脱いでその肉体美をアピールするというボケを繰り出したところ、間が悪かったためかさらに空回りして寒々しい空気が流れたこともあった。

 ミルクボーイの方は、漫才で左側に立っている駒場孝がお笑い界でも有数の筋肉芸人である。ボディビルの大会に出場するほどの本格派だ。

 このように筋肉芸人が立て続けに優勝したのは、お笑い界の歴史においても珍しいことだ。それだけ筋肉芸人の数が増えているということだろう。なぜ芸人たちはこぞって筋肉を鍛え始めたのだろうか。

 お笑い界ではもともと筋肉を売りにする芸人はほとんどいなかった。80年代前半に活躍したぶるうたすが数少ない例外である。ムキムキマン、ランディ・マッスル(ミスターマッスル)など、筋肉を売りにしてテレビで活躍する芸人以外のタレントはたまに出てきていた。

 そんな中で、筋肉芸人の歴史に革命を起こしたのがなかやまきんに君である。彼の場合、そもそも筋肉のボリュームが段違いであった上に、芸名も芸風も潔く筋肉オンリーを貫いていたところが新しかった。きんに君はデビューしてまもなく、その圧倒的な個性が注目され、バラエティ番組で引っ張りだこの存在になった。特に『スポーツマンNo.1決定戦』などの体力勝負の番組では真価を発揮して、優秀な成績を収めた。

 きんに君の登場以降、お笑い界でも筋肉を鍛える人が増え始めた。レイザーラモンHG、庄司智春(品川庄司)、小島よしお、春日俊彰(オードリー)などが続々と筋肉芸人戦線に名乗りを上げた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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筋肉芸人の世界の第二の革命に、お笑い界のカリスマの存在が