アトピーではTh2と呼ばれるサイトカインが病気を悪化させていることが知られています。Th2サイトカインのせいで、皮膚に炎症が起きるのです。しかし、最近の研究ではTh2サイトカインがダイレクトにかゆみを引き起こすことがわかってきました(Cell 2017, 217-228)。つまり、Th2サイトカインの働きは、アトピー患者さんの皮膚を赤くする(炎症)原因以外に、かゆみにまでも関係していることがわかったのです。

 もう少しだけ難しい話にお付き合いください。

 かゆみの神経にはTh2サイトカインがすぽっとハマる鍵穴が見つかったのですが、鍵が鍵穴に差し込まれただけでかゆみは起きません。この鍵からのスイッチをかゆみ神経は感知して、ガソリンタンクの蓋が開くのです。この蓋が開くと、かゆみの燃料が自然と神経に流れ込みます。結果、脳はかゆみを感知するシステムとなっています。

 では、乾癬の場合ではどうか。

 乾癬の患者さんもかゆみを感じています。全体の6割から9割の乾癬患者さんがかゆみを感じているとの報告があります(An Bras Dermatol, 92 <4> <2017>, pp. 470-473)。

 しかし、皮膚科の診察で乾癬患者さんのかゆみの訴えを聞く場面はそれほどありません。それはわれわれ皮膚科医がちゃんと聞き出していないという側面もあるのでしょうが、私は「かゆみの質」がアトピー患者さんと乾癬患者さんとで違うのではないかと考えています。

 かゆみ神経のガソリンの蓋には実は2種類(TRPV1とTRPA1)あって、アトピー患者さんはその蓋の両方が増えていることがわかりました(J Invest Dermatol. 2018 Jun;138<6>:1311-1317.)。一方、乾癬患者さんの増えているガソリンの蓋は1カ所のみ(TRPV1)。このかゆみの燃料を注ぎ込まれる蓋の違いに「かゆみの質」の違いがあるのかもしれません。

 また、サイトカイン誘発性のかゆみは、アトピーの患者さんで起きることは知られていますが、乾癬の患者さんではまだよくわかりません。遺伝子の解析などをみると、乾癬はサイトカインによるかゆみが起きないのかもしれません。

 こういったことから、アトピー、乾癬ともにかゆみを感じる皮膚病でもあるにも関わらず、かゆみの質に違いが出る可能性があります。

 かゆみの質が分類され、そのメカニズムが明らかになれば、新たな標的をブロックするかゆみ止めの開発へとつながります。このまま研究が進めば新しい治療選択肢が増え、これまで「かゆくて何もできなかった人」にとって快適な日が過ごせるようになる日も近いかもしれません。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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