1995年、JR東海は試験車両・955形「300X」を開発した。JR東海では1990年に300系の量産先行試作車を登場させたが、これと並行してさらに次世代に向けた技術開発を推進し、300系の先の可能性を追求する意味で「300X」の愛称を名付けたという。「300X」の「X」の文字はexperiment(=実験)を意味しており、この車両の目的を明確に示している。
高速試験車両の例に漏れず、2種類の先頭車両形状を与えられた「300X」だが、1号車がカスプ型と呼ばれる形状で、後の700系の造形に大きく影響を与えた。そして6号車は300系の改良版のような形状のラウンドウェッジ型だった。
「300X」は、1996年7月26日に時速443キロという記録を樹立した。この記録は、鉄輪式による国内最高速度記録として今もなお更新されていない。これは浮上式のリニア新幹線での営業予定速度には及ばないものの、実験としては素晴らしい成果であった。
■新幹線は最高速度からトータルの性能へ
このように、1990年代前半には各社が試験車両を投入して高速運転の研究を重ね、数々の速度記録も樹立された。しかし、300系「のぞみ」が時速270キロ運転を行って発生した「トンネル微気圧波」をはじめ、騒音、乗り心地、ブレーキの制動距離など、時速210キロ運転では問題にならなかった速度域ならではの課題が次々と発生した。
この「トンネル微気圧波」とは、列車が高速でトンネルに突入した際に発生させた圧縮波が反対側のトンネル出口で解放され、出口周辺に大きな衝撃を伴うドーンという音や振動を発生させるものである。
以降の新幹線は、この「トンネル微気圧波」との戦いになる。JR各社は、試験車両で得られたデータや解析技術による研究を重ね、1995年に量産先行車が落成したE2系や、1997年に先行試作車が登場した700系ではのっぺりとした先頭形状が採用された。