迎えた決勝当日、球場は大谷を一目見ようと集まった観客で埋め尽くされた。盛岡大付にとってはまさにアウェーだった。試合中も、花巻東への声援が大きいように感じた。

 「勝つしかないだろ!」と盛岡大付の選手たちは逆境にかえって奮起した。三回の二橋が放った本塁打では、スタンドから「ファウルだろう!」というヤジが飛び交った。花巻東も3度にわたり抗議したが、選手たちに動揺はなかった。「本塁打が取り消されたとしても勝てる」という自信があったという。

 二塁ランナーで二橋の打球を見ていた千田新平(25)はこう証言する。

「打った瞬間、入ると思いました。県営球場は狭いので距離としては場外まで行くだろうと。あとはファウルゾーンに切れていくかどうか。ポールの近くに打球が飛び込んだので、ポールに当たったのだと思いました」

 判定は覆らなかった。

 その後も「大谷効果」はすさまじかった。甲子園では他校から「あの大谷を倒した学校」として注目された。大会閉会式では、当時の高野連会長が大会総評で「残念なのは花巻東の大谷投手をこの甲子園で見られないこと」と発言し、「同じ岩手の盛岡大付に失礼だ」という旨の抗議が寄せられる事態にまで発展した。二橋さんは「それだけ(大谷が)注目されているのは分かっていたので、なんとも思いませんでした(笑)」と笑って振り返る。

 その後、二橋さんは思わぬ形で大谷と再会を果たす。

「福島県でプロ野球のオールスターゲームが行われたとき、大学の野球部で手伝いをしていました。グラウンドにいる大谷を見つけ、フェンス越しに声をかけると気づいてくれました。手でポールを作って、本塁打を身ぶり手ぶりでジェスチャーしてくれたんです。覚えてくれていて嬉しかったですね」

 二橋さんは現在、三菱日立パワーシステムズに所属。社会人野球で活躍している。自慢の打撃を磨き、プロ入りを目指す。ウエイトは115キロを上げるまでになった。

「大谷はメジャーに行ってしまいましたが、いつの日かもう一度対戦したいですね」

(AERA dot.編集部/井上啓太)

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