人気の要因の一つは、ルール設計が細部にまでわたっていることだ。例えば、形勢逆転の戦略として、「先生が来たぞー!」というコールがある。相手に叫ばれた側のチームは10秒間動くことができず、その間にコールしたチームの大将は敵陣内にある枕をすきなだけ持ち出すことができる。相手の枕を奪うことで敵の攻撃手段を失くし、加えて自分たちの手数を増やすことができる。

 印象的なシーンがあった。予選会のある試合では、防戦一方となっていたチームが、「先生が来たぞー!」コールをうまく使い、相手の枕をすべて奪取。大量の枕を相手の大将に浴びせ、勝利していた。

 伊東市役所観光課の上原和也さんも、「ルール設計に力を入れた」と自信をみせる。

「イベントというよりもスポーツとして夢中になる人が多い。2013年の第1回大会以降、参加者は回を追うごとに増え、今大会では抽選で出場チームを絞りました。今後は、大会数を増やすことも検討しています。他の地域からは『うちでもやりたい』という問い合わせもいただいています。実際に、鹿児島や千葉では予選会が行われた実績があります」

 担当者によると、ルールを考案したのは地元の高校生だという。2010年、伊東高校城ケ崎分校の生徒3人が、社会の問題について、あらゆる角度から解決策を考えてプレゼンする「全国高等学校デザイン選手権大会」に参加。「現代人はさまざまなストレスにさらされている」という問題意識のもと、「まくら投げのすすめ」と題して、「競技化によってストレス解消を」と訴えた。数ある発表のなかで準優勝を果たしたことで、地元の伊東市が注目。「これを観光に生かせないか」という声が市職員らの間で高まり、高校生らが考えたルールを骨格として、今日のまくら投げが生まれたという。大会のPR動画やポスターに新体操団体元日本代表の畠山愛理さんを起用するなど、市の本気度がうかがえる。

「旅館はありますが、枕や布団自体は市の特産品ではないので、直接的なつながりはありません。しかし大会を続けることで、『伊東市といったら枕投げ』というイメージを付けたい。地元の観光資源には海の幸がありますが、それだけでは他の沿岸の自治体と差別化できません。枕投げのついでに宿泊や観光をしてもらい、伊東市の魅力を発信することが狙いです」(前出の上原さん)

 同市の小野達也市長は開会式で、「いつかまくら投げのW杯を伊東市で開きたい」と宣言した。人口およそ7万人の宿場町が、枕一つで大きな夢を描いている。
(AERA dot.編集部/井上啓太)