「ブロッキングも、ダウンロード違法化も、これらは海賊版サイト対策の論点全体のほんの一部であることは忘れてはなりません」

 福井弁護士は、こう前置きをしたうえで、文化庁が著作権侵害の切り札としてダウンロード違法化を過大評価したのではないかとみる。

「海外の海賊版サイトなどが身元を隠して著作権侵害物を大量に頒布することによる被害は甚大で、その対策が容易ではない現実があります。さすがにユーザーが海賊版とはっきり知りながらダウンロードする行為が私的複製の範疇から外されるのは、やむを得ないでしょう。ただ、文化庁は、よく言えば抜け道を完全に封じようとするために、多くの人が予想したより幅の広い規制を加えようとしました。ただ、もともとユーザーの日常的な行為を違法にするという意味でセンシティブな問題だったこともあり、大きな騒ぎになった。官僚的な融通の利かなさや、世論の変化が読めていないところがあったのではないでしょうか」

 海賊版による被害は甚大かつ深刻で、一刻も早く対策を講じなくてはならない。その一方で、人々の自由を過度に萎縮させないよう配慮する必要もある。両方のバランスを考えた“根本的な解決策”は存在するのだろうか?

「著作権を侵害し、著作物を違法にアップロードした人が悪いのは当然ではあるものの、いまだに漫画村が摘発されていないことからも、それがいかに難しいことかはわかるはずです。仮に身元が絞り込まれても、証拠を固めて摘発するのに数年もかかるケースもあるでしょう。万能の決定打はおそらくないので、取れる対策をひとつひとつ実行しつつ、人々の理解を深めていくしかないですね」(福井弁護士)

 今年2月、弁護士や有識者など約100人による連名で、「『ダウンロード違法化の対象範囲の見直し』に関する緊急声明」が発表された。法改正の前提となる立法事実や、法改正が国民生活に及ぼす影響について十分な検討がなされていないと指摘し、慎重な議論の必要性を訴えた。また、自由に対する過度の制約を避けるため、「原作のまま」および「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」と要件を定める必要があり、刑事罰については特に悪質な行為に限定するなどの提言もあった。

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著作権法改正騒動でわかった当たり前のこと