1990年の東西ドイツ統一後、東側では共産主義下で国に没収されていた土地の返還訴訟が相次いだ。首都ベルリンなどは不動産景気に沸いたが、ザクセン州からは、経済的に豊かな西側への人口流出が続いた。ザクセン州の人口は1990年の476万人から2017年には408万人に減っている。

■東西統一後の停滞と深刻な相続放棄

 記者は2008年ごろ、会社の研修で、ドレスデンに半年ほど滞在した。若者は職を求めて、西側の大都市シュトゥットガルトやミュンヘンに出稼ぎに行き、街に残っているのは高齢者ばかり。「エルベ川のフィレンツェ」とかつて称されたほどの栄華をうかがわせるのは、第二次大戦中のドレスデン爆撃後に修復された街中心部のごく一部で、当時はすっかり廃れた街という印象だった。

 統一後の人口流出と経済の停滞によって、ザクセン州では、ポーランドやチェコとの国境沿いの山あいを中心に放棄地が増えた。2017年3月時点では東京ドーム29個分に相当する約135ヘクタールあるという。

 さらに深刻なのは、相続放棄地だ。ドイツでは、相続放棄された土地は州に直接帰属する。2003年に518ヘクタールだったが、2014年には1025ヘクタールとほぼ倍増した。州中央土地管理ザクセンのステファン・ワグナー代表によると、州では活用や管理について対策会議も開いているという。

 ワグナー氏はこう指摘する。

「ドイツでは、不動産は管理する人もいないまま放置されるよりも、放棄された方が有効利用できると考えられています。一方で、自治体には、事故防止や景観保全など土地の管理責任が生じます。放棄地が増えれば、そこに多額の税金を投入して良いのかという議論も当然、出てきます。国の方でも、制度を改正すべきかたびたび議論がありますが、なかなか進んでいません」

※内容は発売当時(2019年2月)のものです