アル・ファティルは無理な体勢からボールを跳ね返そうとするが、頭上を超えるボールに対して、もともと8cmの身長差がある上に体勢十分の冨安にほとんど邪魔をすることすらできなかった。

 ゴールをアシストした柴崎は「誰が入って来るかは彼ら(ゴール前の選手たち)が決めることなので、狙ったところに蹴ることができた」と語る。

「彼らはそんなに大きくなかったので、自分の想定していた展開ではセットプレーで点が取れれば非常に楽になるかなと思っていた。練習もしてましたし、練習の成果が出たんじゃないかと思います」

 もともとスカウティングで分かっていたことと試合での観察眼、コミュニケーション。セットプレーからの得点力は日本代表の課題とされるが、ノックアウトステージにおいて対戦相手のグループステージでの戦いもスカウティングに入ってくる中で、ここからは情報と準備が勝負を決める可能性が高くなる。

 決して理想的な試合内容ではなかったが、そうした中でも相手のウィークポイントを突く形で決めるべきところで決め、ゲームをコントロールして勝利で締めくくったことは今後の戦いでも生きてきそうだ。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)、『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の"天才能"」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行。