特別背任の事件では、過去に「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)事件で無罪判決が出たことがある。ゴーン氏が信用保証の“対価”としてサウジアラビアの知人に約16億円支払ったかについて、特捜部がどのようにして証明するかについては、現時点では明らかになっていない。

 松本氏は、特捜部の一連の捜査についても、こう批判する。

「今回の事件の背景には、明らかに日産とルノーの対立がある。ゴーン氏に不正があるのならば、西川社長が指揮して社内で調査をし、その結果を発表するなどして、会社として責任追及すべき事案だったのではないか。その私企業の権力闘争に特捜部が割って入り、一方の日産のお先棒を担ぐ形で司法取引までして事件化した。公益の代表であるはずの検察として、とりわけ甚大な影響力を持つ特捜部の捜査手法として、いかがなものなのか。特捜部の一時代を築いた吉永祐介氏であれば、こうした捜査自体を許さなかったと思う」

 3度目の逮捕という“奇策”により、ゴーン氏の勾留はさらに長引く見通しだ。しかし、仮に特別背任で起訴できなければ、特捜部の捜査も、日産のクーデターは失敗に終わる。ゴーン氏の再逮捕は、すでに日仏両国も巻き込んだ国際的な問題となっている。特捜部は今、出口の見えないイバラの道を歩もうとしているのではないか。事件の結末はいまだ不透明だ。

(AERA dot.編集部・西岡千史)