他の最終節の試合も録画などで観てみると、引退する選手のスピーチや、降格が決まったチームの落胆ぶりなど本当に悲喜こもごもだった。それで多くの人にとって特別な、“最終節”の一日をメインに小説を書こうと決めたのだという。

「Jリーグの魅力は尋常ではない当事者性。たとえば音楽のライブも楽しいし興奮しますが、サッカーの試合には必ず明確な勝敗があり、サポーターはそれを自分のこととして受け入れなければならないという点がライブとは違う。ごくローカルな大事(おおごと)がスタジアムでは起きているんです。しかもJ2は昇格と降格の両方があるわけなので、最終節に本当に多くのドラマが起こるんですね。今年はあまり観戦できなかったんですが、最終節はホーム最終節と共に観に行きます」

 一方、スポーツテレビ局J SPORTSで月~金のデイリーサッカーニュース番組「Foot!」に長年携わるプロデューサーの土屋雅史さん。幾多の観戦、取材を重ねてきた中、土屋さんは特に心に残る試合が3つあるという。

「まずは03年のコンサドーレ札幌vs水戸ホーリーホック戦。当時は52節まであり、12月の札幌の雪景色をよく覚えています」

 試合はプレッシャーからか両チーム精彩を欠きつつも、札幌が勝利した。この時、札幌の三浦俊也監督は就任1年目。

「会見で『うちは守備的と批判もされたが、守備の強化は世界のトレンド。実際こうして戦って、優勝し、昇格した』と、普段寡黙な俊也さんが最後に結果を出してビシッと言ってのけた姿にしびれました」

 2つ目は07年の湘南ベルマーレvs水戸ホーリーホック戦。湘南は勝てば昇格、負ければ4位以下という、勝敗が天国と地獄を分ける状況だった。リードされるも追いつき、“Mr.ベルマーレ”坂本紘司のアシストで阿部がゴールを決めそのまま湘南が逆転勝利し、昇格を決めた。

 ベルマーレは中田英寿などを輩出した名門チームだが、経営危機もあり、2部に10年居続け昇格争いにも絡めない時代が続いていた。そこで09年に就任した監督が反町康治。率いたU-23代表チームが前年の北京五輪で惨敗していた。

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