いままで、タンク内にあるのは「トリチウム水」と言ってきた前提が崩れたとして、8月30日と31日に福島と東京で開かれた国のトリチウム水の公聴会では、海洋放出に反対する声が相次いだ。公募に応じた個人や団体の44人が意見を発表したが、ほとんどが海洋放出には反対だった。

 参加者からは「ズサンな処理をする東電や政府は信用できない」とする声に加え、海洋放出することで健康被害を心配する声も出た。トリチウムは自然界にも存在し、体内での濃縮は確認されていないとする国の説明に対し、「低濃度でも染色体異常や母乳を通じて体内に残留することが報告されている」(参加者)との意見だ。

 一方、東京電力はトリチウム以外の放射性物質が混じっていたのは運用上のことだとしてこう説明する。

「トリチウム以外を基準値以下にするためには吸着剤の交換頻度を早めることが必要で、それをすると汚染水の処理が遅れてしまう。まず原発敷地境界の放射線量を年間1ミリシーベルト未満にするためには、迅速な処理が必要なため、結果的に取り切れない放射性物質が混ざることになった。外部への伝え方は悪かったがデータは開示しており、問題はないと考えています」(広報部)

 トリチウム水をどう処分するかは差し迫った課題だが、海洋放出ありきだとしたら住民の反発が強まるのは必至だ。原子力資料情報室の伴英幸氏はこう話す。

「タンクに貯蔵されているのは僅少なレベルの放射性物質とは言えず、海洋放出するべきではない。保管場所がないなら10万トン級の大型タンクを造って効率的に貯蔵しつつ、トリチウム回収の研究を積極的に進めるべきです」

(ジャーナリスト・桐島瞬)