北条裕子さんの『美しい顔』が掲載された「群像」6月号(左)と、石井光太さんの『遺体』(c)朝日新聞社
北条裕子さんの『美しい顔』が掲載された「群像」6月号(左)と、石井光太さんの『遺体』(c)朝日新聞社

 第159回(2018年上半期)芥川賞受賞作が決まった。高橋弘希氏の『送り火』である。

 今回、候補作に東日本大震災をテーマにした『美しい顔』(北条裕子氏)が入っていたことが大きな話題となった。この小説がノンフィクション作家・石井光太氏の『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社、以下『遺体』)から無断引用があったと批判されたからだ。『美しい顔』は受賞しなかったが、文壇、ジャーナリズムで物議を醸すことになった。

 石井氏、新潮社ノンフィクション編集部は次のような見解を示している(新潮社ウェブサイト)。

「東日本大震災が起きた直後から現地に入り、遺体安置所を中心として多くの被災者の話を聞き、それぞれの方の許諾をいただいた上で、まとめたのが『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)です。北条裕子氏、講談社には、当時取材をさせていただいた被災者の方々も含め、誠意ある対応を望んでいます」(石井氏)

「『美しい顔』に、『遺体』と複数の類似箇所が生じていることについては、単に参考文献として記載して解決する問題ではないと考えています。北条氏、講談社には、類似箇所の修正を含め、引き続き誠意ある対応を求めています」(新潮社ノンフィクション編集部)

 これに対して、北条氏、講談社「群像」編集部は応えた(講談社ウェブサイト)。

「参考文献未掲載と、参考文献の扱い方という二点において配慮が足りず、その著者・編者と取材対象者の方々へ不快な思いをさせてしまったことを心からお詫び申し上げます」(北条氏、7月9日)

「文献の扱いに配慮を欠き、結果として主要参考文献の著者編者および関係者の方々、さらには東日本大震災の被災者と被災地で尽力された方々に大変ご不快な思いをさせたことを、心よりお詫び申し上げます」(「群像」編集部 7月6日)

 今回の件では作家、ジャーナリスト、文芸評論家のあいだでさまざまな議論がわき起こった。小説のなかでノンフィクションの描写を参考にする際、純文学としてどこまで許容されるのか、参考文献を明記すべきかなどが問われた。

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2012年講談社ノンフィクション賞の選考では