保育所は本来、児童福祉法に基づく福祉施設であるため、子どもを養護する役割を担っており、虐待から守るための入所は優先される。例えば親が育児でうつになった場合などでも、緊急的な措置として保育所に子どもを預けられるよう配慮される。今や、虐待防止のためにも子どもを保育施設に預けてリフレッシュを促すことは一般的になっている。


 
 2015年度から始まった「子ども子育て支援制度」では、保育の要件も変わった。従来は、フルタイムの就労がメインだったが、新たにパートタイム、夜間、居宅内の労働、求職活動(起業準備を含む)、就学、育休中で既に保育を利用している子がいて継続利用が必要なことが加わったほか、『虐待やDVのおそれがある』ことも保育を受ける際の認定基準とされた。これにより、虐待やDV状態であることが明確でなくても、そして保護者の就労を前提にしなくても、保護者が育児について困難さを感じていれば保育所に預けることができることが明示されたのだ。
 
 厚労省によるガイドライン「保育所保育指針」では、保護者支援について明記されており、「保護者との信頼関係を築きながら保育を進めるとともに、保護者からの相談に応じ、保護者への支援に努めていくこと」とされている。だが、保育の現場には課題も多い。親子を守るはずの保育所が、親支援を上から目線の“親教育”とはき違え、親に対して「延長保育は利用しないで」「土曜は預けるな」「育児短時間勤務をとったほうがいい」と、すべて「子どものために」ともっともらしく言って迫るなど、逆に親を追い詰めているケースも散見される。新制度の下で保育所が担う役割が変わったことを現場に周知徹底する必要がある。育児が辛くて預けた保護者にとって、「ご家庭で」を強要されることが起因して、かえって育児放棄や虐待につながるケースもある。
 
 保育所問題は待機児童にばかり目が行きがちだが、保育所には子どもを守るための保護者支援の役割があるということを忘れてはならない。保育所側が必要以上に保育時間などを厳格に管理すれば、保護者を追い込み、かえって虐待や育児放棄に向かわせてしまう危険性もある。保育所で働く側もこのことを改めて認識する必要がある。
 
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必要とされるベテラン保育士の役割