被害経験を発信している人や被害者支援をする団体に、関係者間の対話によって相互理解を深める必要性について問い合わせたところ、「加害者について知ったところで許せるわけでもないし、なによりいまは自分の回復で精いっぱい」「加害者臨床に携わる専門家と被害者支援のスタッフに交流があると知ると、被害当事者は怖がって相談しにくくなる」と返ってきた。当然のことである。そんなか、意欲を見せてくれたのが、にのみやさんだった。

にのみやさをりさん(以下、にのみや)「私は自分自身の回復を考えるなかで、いずれは加害者たちと対話したいと考えていました。被害の実態を知り、性暴力をもう二度とくり返さないでほしい。被害に遭う人をこれ以上増やしたくないからです」

 性暴力、性犯罪被害が苛酷な体験であることは、多くの人が知っている。しかし、それがどれほどのものか、またどのくらいの期間つづくのかということは周知されていないように見える。

にのみや「被害の状況も、症状や影響の出方も人それぞれで、ひとりとして同じではないので、これからお話しするのは私の個人的な体験です。私は信頼していた人からの被害だったこともあり、自己肯定感もそれまで築いてきた人間関係も、何もかもが完全に破壊されました。ゼロではなく、マイナスになったんです。すべて私が悪かったと自分を責めました。自分という存在そのものを消したかった。なのに生き残らされた……。リストカットもオーバードーズ(薬の過剰摂取)も何度もしました。死にたい、というのともちょっと違います。自分を丸ごと消去したくて消去したくて、たまらなかったのです」

 にのみやさんは早くにPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。性暴力によるPTSD発症率は60%、戦争経験者のそれを上回るという調査結果がある。しかし、蝕まれたのは心だけではなかった。20年以上経ったいまになって、身体が悲鳴をあげていると気がついた。

にのみや「PTSDの影響で身体に痛みが出ることもあります。私の場合は長年、病院で心のケアをしても全身がこわばるような激痛は消えませんでした。心が回復すれば自然に治まると思っていましたが、最近になってやっと身体は身体でケアしなければならないのだと知りました。被害でダメージを受けた脳が誤作動を起こして、痛みにつながっているそうです」

 被害による心身の痛みは、年月とともに薄れるとはかぎらない。それなのに、周囲からは何度も「もう忘れなさいよ」といわれたと、にのみやさんは話す。その人たちはよかれと思っていっているのかもしれないが……。

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