そうやって「オヤジによる秩序」が消滅した世界に、突然「葛藤のない女」が出てきて暴れまくる……。そのストーリーと「しがらみのない政治」とか言って、小池百合子が希望の党を立ち上げる姿が重なって「ああ、あの映画ってこういうコトだったんだ!」って、余りのコトに呆れ果てましたね(笑)。

──それにしても、彼女はなぜ、それほどのパワーを手にしたのでしょう?

橋本:都議選でいわゆる「小池旋風」が吹き荒れた、今年7月の都議会選挙以降、暴言騒ぎの豊田真由子とか、不倫騒ぎの山尾志桜里とか、あと、防衛大臣を辞任した稲田朋美や、内閣改造でいなくなった「ヤジ将軍」の丸川珠代……と。立て続けにいろんな女が「ボロ」を出して痛い目に遭っている中で、小池百合子だけが勢いを増してきた。その理由は彼女に長年、政治の世界で「オヤジ」たちの中でもまれてきた「経験知」があり、「私は絶対にボロを出さないわよ」という自信を持っているからだと思います。

 そもそも、小池百合子を今のポジションに引き上げた去年の都知事選って「熟年離婚」と同じ構造なんですよ。母親が「うちのダンナは本当にろくでもないことが分かってしまったので、私は別れます!」って、いきなり離婚届を突き付ける。で、その時に子供たちはどっちにつくか……というと母親に付くことになって、そこから「母親の専横」が始まるわけです。

──つまり、彼女が都知事選や都議選で「自民党のオヤジたち」に勝ったのは、この国の政治から「オヤジの秩序が崩壊した」から。言い換えれば、既に進んでいた日本社会の「父権制」の喪失を可視化し、象徴する出来事だと。そして、そういう「父親はいない」≒「リーダーのいない」世界に戸惑う男たちを押しのけて「ワンダー・ウーマン」が暴れているのだと……。

橋本:そう。小池百合子は「私は自民党のオヤジたちと戦います」と言って都知事となった。そして、さらに都議選でも自民党都議連のオヤジたちを倒して「勝ち組」になった。おそらく彼女は都議選のかなり早い段階から、自分を明らかな「勝ち組」だと自覚したと思うし、その自信が今回の総選挙で見せる一連の「強気」にも繋がっている。自分にはそれだけの人気があるから何でもやれると思い込んでいる。

 そして、その後の展開がさっき話した「バットマン vs スーパーマン」なわけです。父権制という旧来の秩序を失った息子たちがウダウダしていると「もういい! 母さんがやります」って出てきて、「民進党も邪魔ね!」って、一気に吹き飛ばしてしまうという(笑)。

 ただし、小池百合子の人気が凄いものだと「思い込んでいる」のは、おそらく「小池百合子本人」と、彼女にいいようにやられて、すっかり「負け組」の感覚が染みついた自民党のオヤジたちだけ。普通に考えれば、自分が「勝ち組」だと思った瞬間に、そこから先は「下り坂」なんですね。

 ところが、本人はそれが分かっていないから「排除いたします」なんて言い出して、早くも嫌われはじめている。今も「私はボロを出さない女なのよ!」という顔をしているけど、実際には既に「ボロが出てきちゃっている」状態なんだと思いますね。

(取材・構成/川喜田研)