一方でサウジアラビアにリードされた後半22分から岡崎に代わって投入された杉本健勇は、1トップの適性以上に難しいシチュエーションでA代表の初キャップを踏むこととなった。相手が0‐0の時間帯よりも引いてブロックを敷いており、日本は湿度の高さから来る疲労や相手の交代選手を起点としたカウンターの警戒から、中盤から後ろの選手が押し上げることができなくなっていた。

 つまり、杉本がロングボールに競っても、勝ち負けに関係なくサウジアラビアの選手に拾われる確率が高くなってしまったのだ。ハリルホジッチ監督は後半35分に柴崎岳に代えて久保裕也を投入し、[4‐2‐3‐1]にして縦の2トップを形成したことで、多少は改善されたものの、サウジアラビアの巧妙に時間を消費するプレーにより日本の攻撃もうまく畳み掛けられなかった。

 杉本自身は「まだまだ甘いと感じた。もっとレベルアップしていかないと」と素直に反省を語ったが、チームの事情を考慮すればサウジアラビア戦の20数分で“失格”の烙印は押せないだろう。ただし、大迫に代わりうる明確なソリューションとしてアピールできたわけでもない。

 Jリーグでも徐々にポストプレーがチャンスの起点になるケースは増えていたが、杉本はよりゴール前のフィニッシュで評価を高めた選手であり、そもそも国際舞台でいきなり大迫と比較するのは酷な話というもの。ただ、大迫という存在があまりに代えの利かない選手になりすぎるのは本大会に向けても不安要素になりかねない。

 1つのソリューションとしては大迫のポストプレーに依存する度合いの少ないシステムや攻撃の仕方を見いだしていくこと。“大迫システム”をキープしながら、岡崎が入れば岡崎なりの、杉本なら杉本なりの生かし方にはめていく。今回は起用されなかった武藤嘉紀などが入る場合も、また別の持ち味がある。彼らのより良い生かし方を共有していけば、攻撃のバリエーションも広がる。

 もう1つは大迫に似た役割を担える選手の発掘だ。大迫と全く同タイプと言わないまでも、例えば興梠慎三や金崎夢生であれば縦のボールを受けることに関しては岡崎より適しているかもしれない。興梠は1トップの他にサウジアラビア戦で久保が担ったシャドー的な位置で大迫と併用することが可能であるし、金崎は純粋に大迫の代役というだけでなく、縦の推進力や勝負強さを生かしてジョーカーの役割を担うこともできる。

 大迫は最終予選の半ばに組み込まれ、そのまま依存度が高まっていった流れもある。引き続き彼が重要な存在であることに変わりはないが、本大会に向けた“第三章”の1つとして1人の選手に依存しない前線の強化とバリエーションの構築は世界で躍進するための1つのテーマとなるだろう。(文・河治良幸)