右手首の負傷で年内全休を発表した錦織圭(写真:getty Images)
右手首の負傷で年内全休を発表した錦織圭(写真:getty Images)

 シンシナティ・マスターズ開幕を目前に控えた日、錦織圭サイドが発表した「練習中に負った手首のケガのため大会を欠場する」との報は、最終的には、より大きな休養へと発展した。

 シーズンを約3カ月残し、年内は全休へ――。手首の負傷は、ごまかしながら戦うことが許されぬほどの重傷だった。

 錦織のマネジメント会社の発表によると、アクシデントが起こったのはサーブの練習中。打った際に錦織は、手首に「軽い破裂音」を聞いたという。同時に鋭い痛みが走り、練習も即座に中断。その後MRIで右手首を撮影し、複数の専門医師の判断を仰いだ結果、尺側手根伸筋腱の損傷であることが確実視された。

 今後数週間はギプスで患部を固定し、腫れが引いたのちに再検査を行うが、現時点では手術を受ける予定はない。手首の専門医師によれば、通常、尺側手根伸筋腱の断裂、もしくは部分断裂でも損傷箇所が広ければ、回復には手術を要する。手術回避ということは大きな損傷ではないことが予想されるが、全ては再検査の結果次第となりそうだ。

 尺側手根伸筋腱の損傷は突発的に負ったケガではあるが、右手首の痛みは今季の錦織を悩ませてきた要因でもある。アスリートにとって、一般的な負傷には大別すると“スポーツ外傷”と“スポーツ障害”があり、前者は転倒や接触など受傷起点が明確なケース。今回の場合はサーブ練習中のひとつの動きが起因のため、この外傷に相当する。対して後者は、英語では「overuse」と呼ばれるもので、言葉通り“使いすぎ”、“繰り返しの負荷”が原因で発生する痛み。典型的な症例は腱鞘炎や疲労骨折で、テニス肘などもこれに含まれる。

 今季の錦織は、ツアーで2度決勝に進むも優勝はなく、参戦したATPマスターズの5大会でもベスト8が最高成績。昨年の同時期にはツアー優勝1回、マスターズでは2度の準優勝と2度のベスト4進出があることを思えば、今年の不振感は拭い難い。その理由としては、3月のマイアミ・マスターズ中に負った手首の負傷が大きいだろう。同大会は準々決勝で敗退し、その後は休養を取るも、復帰戦となった5月のマドリード・マスターズは準々決勝を戦わずして棄権した。右手首への負荷はバックハンド、特に逆クロスや差し込まれた状態で打ち返した時の負担が大きいという。多くの選手を畏怖させてきた錦織の“コースが読めないバックハンド”は、巨躯の猛者が放つ強打を細身の身体で受け止め続け、ツアーを10年戦うなかで蓄積した負荷は相当なものだろう。

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