その意味でも、今回のケガによる年内全休は良い休養期間になるのではと見る向きも多い。そう思える根拠として最も心強い前例は、シンシナティ・マスターズ翌週に世界1位に返り咲いた、31歳のラファエル・ナダルだ。

「トップ選手のなかで、僕ほどケガをしてきた人もいないんじゃないかな?」

 そう苦笑を浮かべるナダルは、昨年4月に利き手の左手首を痛め、その後は騙し騙し戦うも最終的には10月上旬の時点で年内休養を決断した。以降は治療とリハビリに励むとともに、自信を失いかけていたフォアハンドの抜本的な改善にも集中して取り組んだという。

「僕は決して、休養を取りたかった訳ではない。ただあの時は、手首の治療のためには休むしかなかったんだ」

 昨年末の苦しい日々を振り返るナダルは、こうも続けた。

「昨年末に約1カ月半、本当に良い練習ができた。あの時の激しく質の高い練習が、今の好調につながっている」

 今季は錦織に限らず、トッププレーヤーたちのケガが顕著なシーズンだ。元1位のノバク・ジョコビッチはひじの故障、昨年の全米オープン優勝者でもあるスタン・バブリンカもひざの負傷を理由に、錦織より一足早く年内全休を表明している。テニスツアーのスケジュールや、トップ選手に課される出場義務が過酷過ぎるとの声は絶えない。しかしナダルは「ツアーは20年以上変わらなかった。ここから先も変わることは期待できない」と、諦念に似た所感を漏らした上で、こう言った。

「僕らは現実を受け止め、先に進んでいくしかない」と。それは今の錦織への、エールにも響く言葉だ。(文・内田暁)