「本ってなんて素晴らしいんだろう」と感動した私は、本を出して誰かの助けになりたいと思い、出版社がある東京に、可能なら仕事の助けとなる資格がとれる薬学部のある大学に行きたいと親に告げました。すると親から「大学に行くなら生活費や学費を出す。代わりにお金がかからない国立に行って」を提示されました。それを満たす選択肢は一つ。そう、まさかの東大となったのです。
そんな経緯で受験勉強を開始したのですが、始めたのが高3の春からとかなり遅い上に、授業をサボりすぎて成績もビリに近く、基礎が全く築けていないため、最初の頃の問題集は古代エジプトの文字で書かれた暗号を解読している気分でした。
受験期も半分を過ぎた秋ごろの模試で、理系でありながら数学の偏差値29をとったときはさすがにショックでしたが……。「いかに効率的にラクをするか」という姑息な性格をよく生かした勉強法で、1浪はしましたが無事東大に合格することができました。私の高校はあまり東大に受かるような進学校ではなかったので、成績が悪かった私の合格は周囲から本当に驚かれました。
ここで振り返ると、東大に合格するにあたり、ポイントは三つあったなと思います。一つめは、ひたすらラクをするためには周囲を気にしない私の性格。二つめは、「こういう風に勉強して」「この問題集をやると東大に受かりやすいよ」という合格者の勉強法の本を読んだこと。うつの本と同様に受験勉強の対処法を示してくれました。そして三つめは、進学率を上げるため「東大なんて馬鹿なこと言ってないで現実を見てくれ」と何度も必死で止めてきた先生に対し、「東大?頑張れば受かるんじゃない?」とあっさり言いきった親の態度です。
勉強がサッパリできない子に対し「東大に行け」という親からの言葉は、一般的に捉えると「東京を諦めさせるための方便」に聞こえるかもしれません。しかしうちの両親は大真面目だったので、私も当然のように受かると信じていました。
大学卒業後に私は心理カウンセラーの資格を取ったのですが、心理学的に親のこうした言葉は「ピグマリオン効果」という、とても理にかなった子どもへの接し方だと知りました。うちの親は子どものやりたいことをただ応援するだけ、ぶっちゃければ単なる放任主義なのですが、そうした親の態度がなかったら私は東大を諦めてしまい、決して受からなかったでしょう。
さて、そんな私ですが、息子が生まれた今も変わらず「ひたすらラクを求める」「にもかかわらず将来性を伸ばしていく」育児法を模索中です。育児に正解はないと言われてはいますが、不正解はあると思っています。そこで心理学を融合させたり、時には常識と言われていることに異議をとなえたりしながら、「杉山なりの育児の対処法」を日々実践中なのです。
(文/杉山奈津子)