からだの中で唯一、血管を直接見ることができるのが眼だ。しかも脳に近い。眼の血管に異常があると、動脈硬化や脳卒中のリスクが高まるという。自覚症状がないため、検査を受けてわずかなサインも見逃さないことが重要だ。
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眼はからだの中で唯一、血管を直接、肉眼で観察できる器官だ。眼の奥にある眼底と呼ばれる場所を調べる「眼底検査」で、網膜にある血管の状態がわかる。
この眼底検査により、緑内障や眼底出血など眼の病気のみならず、高血圧や糖尿病、動脈硬化など全身の病気や、脳卒中や心疾患などの重篤な疾患リスクのサインも見つけることができる。順天堂大学眼科学教室先任准教授の平塚義宗医師は、こう話す。
「眼の網膜は脳に近いため、網膜の血管の状態は、脳の細い血管の状態と強い関連があります」
網膜の血管にはさまざまな異常が表れるが、特に注意すべきは、網膜に白い綿花のような斑点がある場合だ。これは「軟性白斑」と呼ばれ、網膜の血流が悪くなることによって、視神経線維がむくんでいる状態だ。
「網膜の所見とその後3年間の脳卒中の発生率を調べたとき、軟性白斑があると、白斑がない場合より脳卒中の発生率が約7倍になるという研究報告があります」(平塚医師)
軟性白斑は、血糖値や血圧が高い人、動脈硬化が強い人などに多くみられる。だが、網膜の中心部にある黄斑という視力にかかわる部分に出ることはないため、視力に影響は出ず、自覚症状もほとんどない。眼底検査以外で見つけることができない。
軟性白斑のほか、「細動脈瘤(網膜の細い動脈のコブ)」「斑状出血(網膜の小さな出血)」なども脳卒中発症リスクは通常より4~5倍に高まる。「細動脈狭細(細い動脈がより細くなる)」「交叉現象(血管の交叉部分の異常)」「反射亢進(血管の血液が反射して金属のように見える)」の存在などは、まだ初期の段階だが、ない場合より発症リスクは2倍程度高まる。
眼底の状態は、糖尿病とも深い関わりがある。網膜が傷み、視力が低下する「糖尿病網膜症」は、糖尿病腎症・神経症とともに糖尿病の3大合併症のうちの一つだ。眼底検査で網膜症を指摘されて初めて糖尿病に気づく人も少なからずいる。糖尿病網膜症は緑内障に次いで、失明原因第2位の疾患だ。