プロモーターは所属選手の商品価値アップのためには誇大宣伝を厭わないもの。特に試合前のコメントは鵜呑みにすべきではないのは事実だ。この日のアラムには、実力派王者クロフォードの取材に集まったメディアに、知名度が高いとはいえない村田の名前を売り込んでおきたいという思いがあったのだろう。

 実際にここでの発言は著名なウェブサイト「Boxingscene.com」が記事にしており、アラムの目論見通りにファンの目に留まる結果になった。筆者ももう何度も目の当たりにしてきたが、百戦錬磨のプロモーターのこんな抜け目ない手腕は見事という他にない。

 ただ、もちろんすべてがプロパガンダだと言いたいわけではない。今のミドル級は必ずしも層が厚い階級ではなく、前記通り、エンダム対村田戦の勝者にも改めてアメリカの関係者から注目が注がれるだろう。アラムの読み通りに村田がインパクトの大きな形で勝てば、未来は広がる。必然的にゴロフキン、カネロ、ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)、デビッド・レミュー(カナダ)といったビッグネームからも関心を持たれるに違いない。

 その意味で、今回のエンダム対村田戦には、“日本人史上2人目のミドル級制覇”“五輪&プロの両方で王者に”といった当面の期待だけでなく、さらにその先の夢までがかかっていると言ってよい。

 まず、すべては今戦の内容、結果次第。その商品価値に期待をかける老プロモーターも、ニューヨークで吉報を待っている。“審判の日”を迎えた村田は、世界中で話題になるようなパフォーマンスを大舞台で見せられるだろうか。(文・杉浦大介)