後藤さんは「今は慣れたが、みなみが国内最高齢になるかならないかの時期が、一番ひやひやした」と語る。専門学校で動物の扱い方全般は学んだが、コアラに関しては、国内の飼育例が少ないこともあり、現場で知識や技術を蓄積していくしかなかったそうだ。

 コアラの飼育は難しい。例えば、えさのユーカリ。後藤さんによると、多くの動物は人工飼料が開発されているが、コアラはなく、ユーカリしか食べない。水を飲むのが下手で、水分もユーカリから取るため、ユーカリの確保は必須だ。個体ごとの好みもあるため、イングランドの丘では、淡路島内や九州の農家の協力を得て、常に新鮮なユーカリを4、5種類入手できる体制を取っている。

 病気にならないようにすることも大切だ。コアラは口から薬を飲ませることができず、治療は注射などに頼るしかない。また、泌尿器系の病気にかかることが多いため、抗生物質を注射するとおなかの中の善玉菌(健康の維持に役立つ腸内細菌)が失われ、ユーカリを消化しにくくなることもある。このため、マッサージをしておなかの調子を整えるようにしている。

 スタッフらの地道な努力の積み重ねが、コアラの長寿に一役買っているといえそうだ。後藤さんは「3匹とも私が入社した時に来た子たちなので、同期というか、特別な親近感がある。ここまで来たら、無理に長生きさせるのではなく、記録にこだわらずに天寿をまっとうしてほしい」と話す。

 みなみたちイングランドの丘のコアラと系統は違うが、名古屋市の東山動植物園によると、同園で23歳11カ月まで生きたコアラが国内では歴代最高齢だという。また、海外でも23歳まで生存した例があるそうだ。淡路島の3匹も、スタッフらの愛情を受けながら長生きしてほしい。(ライター・南文枝)

※2018年8月5日、「みなみ」は死亡しました。22歳3カ月でした。イングランドの丘によると、最期は眠りながら安らかに息を引き取ったとのことです。