そして、これらすべての背後に、アメリカではWBCがまだ価値ある大会とみなされていないという事情がある。

 第4回を迎えるが、依然として大会のことをほとんど知らないスポーツファンは米国内に少なくない。例えばサッカーのW杯くらいの権威があるなら、少々無理にでも出場すれば、選手側には後のキャリアアップ、球団にも選手の商品価値増大といった恩恵がある。しかし、現在のWBCはまだそんなブランド価値を得るにはほど遠い。よって、WBCはMLBが主催の大会でありながら、現場の人間は総じてシーズン優先であり、もちろんファンの考えも同じである。

 「田中が出てくれなくて良かった」

 上記したデビッドフ記者の記事も、そんなニューヨーカーの心情を汲み取った内容だった。そういった現状を考えれば、雇用者であるチームが重要な立場にいる主力選手の不参加を願うのは当然に違いない。

 これは想像だが、多くのラテン系のスター選手が出場しているのを見る限り、不参加を望むチーム側の要請は“指示、命令”とまでは言えないレベルではないか。強行に主張すれば、最終的には本人の意思次第で出場は許されるはずだ。

 ただ、スケジュール的により困難で、今オフに関しては揃ってコンディションに不安がある日本の投手たちが、チームから歓迎されていないイベントへの参加を躊躇うのは理解できるところではある。結果として、今大会に出場するのは、比較的仕上がりが早いと言われる野手で、新天地アストロズでは半レギュラーという立場の青木だけになったわけだ。

 もちろん個々の選手の体調、状況次第だが、今後も投手に関しては多くが消極的な態度をとり続けるのかもしれない。いずれWBCが“出場するだけで名誉”という大会にでもなれば話は変わってくる。しかし、いつかそうなる可能性があるとしても、まだかなり時間がかかりそうな気配ではある。(文・杉浦大介)