理論的には可能でも、コンピューターの処理能力が追いつかずに実現できなかったことが、実現できるようになってきた。2016年3月に囲碁のトッププレーヤーを破って世界の度肝を抜いたDeepMindの「AlphaGo(アルファ碁)」も、自ら学習して上達するために、Googleの膨大なITリソースを必要とした。囲碁プログラムが人間に勝利するまであと10年はかかるという予想を一気に短縮したのは、ITリソースを思う存分利用できたからでもある。

 配車アプリのUberや民泊サービスのAirbnbに代表されるシェアリングエコノミーなど、現在進行しつつあるイノベーションの多くは、コンピューターの処理能力の劇的な向上によって支えられている。こうした変化の背後にあるのが「アルゴリズム革命」だ。

「ソフトウエアのアルゴリズムによって人間の活動をキャプチャ(取り込み)し、トランスフォーム(変形)し、リプレイス(置き換え)する。自動化される領域が広がれば、それだけ生産性が向上し、人間の活動で成り立っていた高コストな産業はディスラプト(破壊)される。これがいま起きている『アルゴリズム革命』です」

 人間がやっていた作業が煩雑なほど、アルゴリズムによって自動化されたときの経済的インパクトが大きい。たとえば現金を海外に送ろうと思えば、途中にいくつもの銀行が介在し、日本の銀行の場合はそれぞれ人間の目でチェック作業をしているため、1回の送金にかかる手数料がバカにならないが、 間接的に送金に相当する資金の流れを作り出すTransferWiseのようなサービスを使ったり、仮想通貨のビットコインを使ったりすれば、人手を一切経ることなく、スマホアプリの操作だけで送金が可能だ。当然、手数料はごくわずかで済む。人間がかかわらないからミスもほとんどないし、事業を拡大するときのコスト的な制約もない。

「人間の活動をリプレイスできない部分はスケールしません。急成長するシリコンバレー発のスタートアップは、誰もが面倒だったり、とても非効率だと思っているペインポイント(痛点)をアルゴリズムに置き換え、徹底的に自動化・効率化する力学から生まれています。面倒な作業を勝手にやってくれるなら喜んで利用したいというのが人間だし、ユーザーが一気に拡大しても、外部リソースを調達すれば、過負荷になってサービスが滞ることもありません」

 その先に「白物家電」ならぬ「白物AI」の時代がやってくる、というのが櫛田氏の見立てだ。クラウドを通じて、誰でも安く人工知能を利用できるようになる。私たちも、次の質問に対する答えをそろそろ真剣に考えるべき時が近づいているようだ。

「グーグルはDeepMindの一般向けサービスを準備しているようです。たとえば近い将来、月10ドルでDeepMindが使えるとしたら、あなたは何に使いますか? 問われているのは、アルゴリズム革命をどのように自分のビジネスに活かすか、というイマジネーションなのです」

(構成:田中幸宏)