もちろん、闘莉王自身がチームの重要な戦力になっていくことは間違いない。技術は衰えないとは良く言われる言葉だが、闘莉王を見ているとそれがよくわかる。再来日から10日間の練習では、さすがにフィジカルコンディションはまだ上がりきっていない印象だが、すでにロングパスの精度や細かいトラップ、DFとしてのポジショニングなどはすでにチームトップクラスの存在であることを証明している。ゲームメイク能力も高く、紅白戦では「はい、フリー」と言いながらプレスにくる相手の頭上を抜くフィードを軽々と送るなど、桁違いの技術を見せる。ジュロヴスキー監督は23日の就任以降、ボールポゼッションを攻撃の軸に置く戦術をチームに急ピッチで浸透させているところだが、そこに最後尾から試合を操れる闘莉王が加わったことは何よりの助けになるはず。明確だが決まりごとの多いゾーンディフェンスについても、経験済どころかその中心にいたことのある背番号4の存在は、文字通り「ピッチ上の指揮官」としての役割が期待されるところだ。

 いまだ予断を許さない、非常に厳しい状況が続く名古屋だが、ジュロヴスキー監督の就任と闘莉王の加入でJ1残留への道には光が差してきた感もある。就任時に「選手に自信を取り戻させたい」と語った指揮官は、緻密な指導をしつつ「これをやってダメなら監督のせいだ」と問いかけ、不安を取り除くことで選手たちの自信回復につなげてきた。采配初戦のリーグ10節FC東京戦は引き分けたが、それまで5バックで引きこもって失点を食い止めていたチームが、わずか4日間の指導で攻撃的に1-1の結果を出すまでに変貌した。今までにない手応えを監督の指導力で手にしたことで、チームには「次は勝てる」という確信にも似た自信が芽生え始めている。闘莉王の加入はそれを促進させる、加速装置のような役割を果たすことだろう。

 新指揮官の目論見は、勝点35~36に設定した残留ラインを残り7試合で何としても超えること(現在は20)。FC東京戦の前日には「残り8試合で5勝して15ポイント、2つ引き分けて17ポイント。これで36ポイントだ」と皮算用を明かしており、FC東京戦を引き分けたことで7戦5勝1分1敗を最低ラインのノルマとして戦うことになる。リーグ18試合連続未勝利のチームにとっては高すぎるハードルだが、いまだ降格経験のない「オリジナル10」としては諦めるわけにはいかない。そのためにも残留争いの直接対決となる10日のアルビレックス新潟戦に勝利し、勢いに乗ることが重要だ。その上で25日のベガルタ仙台戦、10月1日のアビスパ福岡戦、22日のジュビロ磐田戦と続くリーグ下位勢との戦いに勝利し、リーグ最終戦の湘南ベルマーレにも勝つ。そして9月17日のガンバ大阪、10月29日のヴィッセル神戸からは勝点を奪う。これが残留への青写真だ。これをジュロヴスキー監督は「Sweet dream」、甘い夢のようなものだと表現したが、夢物語でも現実的に達成しなければ残留はない。勝ち続け、状況が好転することに期待する。まさに「人事を尽くして天命を待つ」。名古屋グランパスには誰一人として、諦めている者などいない。(文・今井雄一朗)