赤谷の森がなわばりのイヌワシのペア
赤谷の森がなわばりのイヌワシのペア
赤谷の森
赤谷の森
伐採前の試験地の様子
伐採前の試験地の様子
皆伐後の試験地
皆伐後の試験地

 森の木を切ることが、自然を守ることになる……。

 こんな話を聞いた。それも木を間引く間伐などではなく、森の一部を丸ごと切り払ってしまう皆伐をし、森を草原にすることが自然回復につながるというのだ。いったいどういうことだろうか。

 場所は群馬県みなかみ町の北部、新潟県境に広がる標高差は1400メートルにもなる「赤谷(あかや)の森」である。広大な森は、1万ヘクタールにも上る。この土地を、地域住民団体である「赤谷プロジェクト地域協議会」と、林野庁関東森林管理局、(公財)日本自然保護協会(NACS-J)の三者が、生物多様性の保全管理と持続的地域作りをするために2004年から協働プロジェクトとして取り組んでいる。

「もともとこの森は林野庁が国有林として管理を行っていた場所です。そうした場所の管理を自然保護団体や地域住民も加わって行っていこうというのは全国的にもかなり斬新な取り組みと言えるでしょう」(NACS-J 赤谷プロジェクト担当 松井宏宇さん)。

 皆伐がなぜ自然保護につながるのか。その理由はイヌワシにあった。イヌワシは成鳥になると翼長2m近くにもなる大型の猛禽類。ペアごとになわばりを持ち、ペアとなった成鳥は1年を通してその中で暮らす。なわばりの範囲は平均で約60平方キロにもなる。山手線の内側の面積が約63平方キロなので、どれだけ広い空間が必要か分かるだろう。

 悠々と空を飛ぶ姿は美しく、また獲物を狙って滑空するスピードは時速240キロにもなり、その堂々たる姿やスピード感から“天狗のモデル”とも言われている鳥である。

 日本の空の王者ともいえるこの鳥は、環境省の第4次レッドデータリストでは絶滅危惧種ⅠB類(EN)に指定されており、日本ではわずか200つがい、個体数は500羽程度しかいないとされている。そして、赤谷の森には1つがいのイヌワシがいるのだ。

「イヌワシは狩りをしてノウサギやヤマドリ、大型のヘビ類などを食べています。彼らの狩りは樹木の少ない開放された草原のような開放地や、木と木の間が空いている老齢な自然林で行われます。人工林のように空間がない森だと、身体が大きいため中に入っていくことができず、狩りができないんです」(松井さん)。

次のページ