日本人女性の間で韓流は大流行した。大久保はコリアンタウンとしてメディアにも大きく取り上げられるようになり、韓国レストランや、ヨンさまグッズを売る店が急増。繁盛ぶりを見て、韓国からさらにニューカマーたちが押し寄せた。韓国クラブの時代とはまったく違う、グルメとアイドルの街として栄えた。日本と韓国が共催した、2002年のサッカーワールドカップも後押しした。

「韓流ブームで、店にも競争相手が増えました」(尹さん)

 韓国レストランと観光客の急増を受けて、韓国の食品を扱う食材店が次々に現れたのだ。しかし韓国広場は、本場から食材を直輸入するルートを持つ、仕入れの代理店でもあったことが強みだった。ライバル店に商品を卸す立場だったのだ。価格競争にも動じることなく、老舗として20年以上を勝ち抜いてきた。

 いまでは2000種もの商品を扱う。

 日本人に人気なのは、韓国のり、お茶、インスタントラーメンなど。辛ラーメンは本場韓国よりも安く提供している時期もあったという。キムチの試食や、韓国焼酎のコーナーにも日本人の姿は多い。

 ソウルで人気になっているチョコパイのバナナ味など、韓国のお菓子も売れ筋だそうだ。韓国人の若い留学生が多いことも影響しているようだ。

 店を訪れるお客は韓国人や日本人だけではない。雑多な国際都市として成長する大久保を象徴するかのように、さまざまな人種であふれる。

「野菜や肉など毎日食べるものは、世界のどこに行ってもそう変わりませんからね」(尹さん)

 韓国のものだけでなく一般食材も幅広くそろえ、しかもリーズナブルな料金で提供することで、大久保の住民たちの生活を支え、観光客を楽しませている。

 2012年頃には領土問題に絡んでヘイトスピーチが巻き起こり、大久保では店を畳む人も多くなった。最盛期に240店舗ほどあったが、いまでは半数程度ではないかという。

 それでも韓流はまた最近になってファンを増やしている。いまはヨンさまの頃に韓流にハマッた親世代が、子供をつれて訪れる姿も多い。

 そして経済力をつけた中国人が、観光客としても在住者としても急増している。東南アジアの留学生も目立つようになった。

 外国人観光客に大人気の新宿はホテルが飽和状態のため、大久保に新設が進んでいることも国際化を進める一端を担っている。ホテルや小さなゲストハウスはもう数え切れないくらいで、欧米やアジア各国からの観光客が好んで泊まっている。

「これからの大久保が楽しみですね」

 と尹さんはいう。

「オリンピックもあるし、いろいろな国から人が来るでしょう。歌舞伎町のイメージも変わりつつあります。この地域は観光特区のような場所になっていくのかもしれません」(尹さん)

 日本の中で、無数の文化がミックスされていく街として、大久保はこれからも発展していくだろう。(文・写真/室橋裕和)