渋谷を拠点とする東急電鉄をはじめ、大阪・梅田に一大ターミナルを持つ阪急電鉄、福岡・天神を拠点とする西日本鉄道がそれぞれベンチャー支援やコンテストなどを開始。少子高齢化で沿線人口が減少傾向にあるなか、自社の沿線を活性化させるには、成長の可能性を秘めた若いベンチャーの力が欠かせないとの判断からだ。

●名だたる大手がコラボレーションに乗り出す

 これまではネットビジネスと縁遠かった銀行や鉄道の業界トップ企業がベンチャーの必要性を認識したことは、他業界にも大きな影響を与え、さまざまな業界の大手が堰を切ったようにコラボレーションに乗り出している。

 スタートアップと大手企業のマッチングサービス「Creww(クルー)」を2012年に立ち上げたCreww株式会社の伊地知天(いじちそらと)代表取締役は、「当初、大手企業にスタートアップとの協業を持ちかけても反応は鈍かったが、2013年に安倍政権が成長戦略としてベンチャー支援を発表して以降、風向きが変わった」と指摘する。

 最近では名だたる大手企業が同社のサービスを利用。これまでに大手34社がスタートアップ約130社とコラボレーションを成立させている。そのなかには、読売新聞社や朝日新聞社、日本テレビ、読売テレビ、スポーツニッポンといった大手マスコミのほか、アサヒグループ、大和ハウス、森永製菓、昭和シェル石油、三越伊勢丹など、インターネットビジネスとは遠い業界の企業名が目立つ。「ITビジネスと関係が浅かった業界こそ、ネットビジネスの“遺伝子”をスタートアップを通じて送り込むことが重要」(伊地知代表取締役)と考え、ITから遠い業界への働きかけを強めているという。

▼社内に新ビジネスを立ち上げられる人材がいない

 大手企業とスタートアップとのコラボレーションは加速する一方だが、そこは双方の思惑が一致していることが大きい。

 ある大手企業のM&A(企業買収や合併)担当者は、「新しいビジネスを創らなければならないとの課題は常にあるが、社内にITを使ったビジネスを立ち上げられるような人材はいないし、そんな気概もない。だったら、スタートアップを買収するか協業したほうがよほど早い」と明かす。

 一方、スタートアップの側でも「大企業の動きはとにかく遅く、保守的な文化は相いれないが、顧客基盤や店舗など巨大なインフラを持っている。大手企業側が門戸を開いてくれるなら、それを使えるのは大きな魅力」(技術系ベンチャー企業経営者)との考えだ。

 Crewwの伊地知代表取締役は、「スタートアップは自社の成長しか考えていないのが一般的だが、大手と組めば実現への近道となる可能性が高い。一方の大手企業側も自社内からは生まれづらい技術やアイデアを取り込むことができる。お互いビジネスライクで利用し合う関係でいい。実利が出ないとコラボレーションの意味がない」と力を込める。

 大手企業とスタートアップのタッグがこの先何を生み出すのか。2016年はその萌芽(ほうが)が見える一年となるかもしれない。(山田功)