石川県加賀市内にあるドームハウス
石川県加賀市内にあるドームハウス
屋内の様子。住居・店舗など用途はさまざまだ
屋内の様子。住居・店舗など用途はさまざまだ
500棟のドームハウスが立ち並ぶ阿蘇ファームランド(写真提供:ジャパンドームハウス)
500棟のドームハウスが立ち並ぶ阿蘇ファームランド(写真提供:ジャパンドームハウス)

 まるで“近未来の世界”のようだ――石川県加賀市内を車で走ると、突如として白いドーム型の建物が密集した光景が現れる。一見すると、かまくらのようにも見えるが、風変わりな建物は一体何なんだろうか。

 調べてみると、この建物は加賀市の住宅メーカー・ジャパンドームハウスが開発したもの。しかも、その代表者は“異色な経歴”だった。代表を務める北川勝幸さんは、創業45年を迎えた和菓子を製造販売している「御菓子城加賀藩」の経営者でもある。お菓子を作る会社が、なぜ“畑違い”の分野に乗り出したのだろう。

 その背景には、和菓子製造会社を経営する北川さんの自負があった。「人間にとって最も大切なテーマは健康。安心・安全な『食』を提供したい」。こうした安心・安全を重視する考えを「住まい」に広げる形で、住宅分野への参入を決めたという。お菓子から住宅へ――普通の経営者ならば、考え付かないビジネス展開だが、その思いは引き継がれている。実は、この建物は「ドームハウス」と呼ばれる「おまんじゅう」をモチーフにしたハウスだという。確かに、その外観は白いまんじゅうに見える。

 このドームハウスはどんな特長があるのか。同社の担当者に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「ドームハウスは、厚さ20センチの特殊発泡ポリスチレン(発泡スチロール)で造られています。断熱材そのもので造った家ですね。外気との温度差は7~10度もあり、夏は涼しく、冬は暖かいんです。約22畳分のスペースがあるのですが、4畳半用のエアコンで十分、冷暖房が可能です」

 素材は発泡スチロール?! すぐに壊れてしまいそうだが、心配は無用だという。ドームハウスに使用されている発泡スチロールは、一般的なそれよりも低発泡で密度が高い。また、十分な強度を確保しているため、「構造体」として国土交通省の使用許可も得ている。

 さらに、劣化を防ぐ工夫もある。発泡スチロールを劣化させる主な原因は紫外線だ。素材の表面を塗装することで、紫外線による劣化を防いでいるという。もっとも古い建物は施工から15年が経過しているが、構造的な不具合はない。耐久性はどうやら確保しているようだ。

 実際、ドームハウスでの生活を体験できる施設もある。同社が経営する、テーマパーク「阿蘇ファームランド」(本県南阿蘇村)がそれだ。ここでは、ドームハウス約500棟を宿泊施設として利用している。まるで菓子折りに入ったまんじゅうのように、ドームハウスが並ぶ光景は圧巻である。結果、これが評判となり、同ランドは九州で人気の観光地に成長したとか……。

 ドームハウスはこれ以外にも国内で約500棟も造られている。その多くは、宿泊施設やセカンドハウス、店舗などに使われ、診療施設や寺院・教会、ミュージアムとなったケースもある。

 その用途は広がりをみせている。近年はドーム型だけではなく、かまぼこ型のハウスも開発された。ビニールハウス以上の耐久性があることから、自然災害に強い農業用施設として普及している。また、鳥取県琴浦町では、防災備蓄庫として利用されているそうだ。シンプルな構造だけに、メンテナンス費用は安く抑えられるという。耐震性も非常に高く、降雪地でも雪は滑り落ちるので安心だという。また、ドーム型なので風の抵抗が少なく、台風でも壊れないという利点もある。

 ひょっとしたら、あなたの街でもおまんじゅうハウスが見られるかもしれない。

(ライター・若林朋子)