『IQは金で買えるのか――世界遺伝子研究最前線』(朝日新聞出版)の著者で、朝日新聞科学医療部の行方史郎記者は「VICE」の記事に興味を持ち、中国の「天才赤ちゃんづくり」についてミラー氏を取材した。その後、中国の優生政策や人口政策について調べるうちに、国家レベルで精神疾患や先天異常を一掃しようとする露骨な発想に行きついたという。

「中国には、既に『遺伝子才能検査』なるサービスを販売するバイオテクノロジー企業があり、この企業は中国政府機関からの助成金を受け、民間企業10社からの出資で生まれ、現在では政府関連機関が9割の株式を保有しているそうです。これは着床前診断とは直接関係がないものの、国とこれだけ関係の深い、遺伝子で人の評価を行う企業が中国には既に存在します。仮に、中国の国民ひとりひとりが自分の子どもの将来を思い、ごく当たり前に受精卵の選別をするようになれば、私たちは心穏やかでいられるでしょうか」

 このような行方記者の懸念に対して「バカげている」と一笑に付したミシガン州立大学のステファン・シュー教授は、知能には数百から数千の遺伝子変異が関わっていると推定されるが、その理想的な組み合わせが実現すれば、IQは1000以上になると推測している。しかし、それが可能となっても、理性ある人は賛成しないだろうとシュー氏は述べている。

 「IQは金で買えるのか」という問いに対して、「現時点でのわたしの答えを言えば、否である」(『IQは金で買えるのか』エピローグより)と行方氏も同じ意見だ。

 しかし、科学は日々進歩し、ヒトの設計図は次々と解き明かされていく。果たして、人類は、この究極の情報を前にして、倫理観と理性を保つことができるのだろうか。