雲海に包まれた竹田城跡(全但バス提供)
雲海に包まれた竹田城跡(全但バス提供)
「天空の城」竹田城跡をバックに立つ雲海職人の2人
「天空の城」竹田城跡をバックに立つ雲海職人の2人

「天空の城」「日本のマチュピチュ」と言われている、兵庫県朝来市にある国史跡・竹田城跡。雲海に包まれる姿が美しい山城だが、ここ数年で人気に火がつき、年間50万人以上が訪れている。そんな竹田城跡を包み込む雲海が詰められたペットボトルをご存知だろうか。

 ペットボトルは1本300円(税込)で、ふもとの観光施設、山城の郷で販売されている。ラベルには、原材料は雲海、品質は「あなたの気持ち次第」とある。施設を運営する全但バス(兵庫県養父市)によると、昨年12月の販売開始から、約400本が売れたそうだ。

 ペットボトルを作っているのは、日本にたった2人しかいない「雲海職人」だ。雲海は鮮度が命。良質な雲海を採取するため、午前4時には城跡に上り、夜明けを待つ。しばらくして雲海が出てくると、「エイサッ」の掛け声と共に、流れるような動きで袋を左右に振り、すくい取っていくのだ。この作業の様子が収められた動画は、山城の郷のホームページに掲載されており、既に5000回以上再生されている。

 職人として活動するのは、松本徹也さん(37)と松下哲久さん(32)。日々、雲海に包まれる城跡を見上げているうちに、「すくって世間に広めたい」という気持ちが大きくなっていった。そしてある日、気が付くと城跡に立ち、雲海をすくっていた。今や、雲海の採取は「ライフワーク」という。

 実はこの2人は、全但バスの社員。城跡はこの冬、雪による登山道の凍結や工事のため、3月19日まで入山禁止となっている。同社は城跡を訪れた人たちに、上れなくても、記念に雲海を持って帰ってもらえないかと、ペットボトルの販売を企画し、2人が雲海職人となった。他の従業員も「楽しい企画」と受け入れ、温かく見守っているという。

 雲海を詰めるのは、簡単な作業にも思えるが、勢いをつけ過ぎても、ゆっくり過ぎても良質な雲海は採取できない。また、山に登っても、雲海が発生せず、空振りに終わる時もあるという。

 そんな作業をなぜ続けているのか。松本さんは「竹田城を多くの人に知ってもらいたいという一心でやってきた」と話す。これまでに完成させたボトルは約1000本という。松下さんは、「目に見えないものだからこそ、心を込めてお届けしたい」と意気込む。

 試しにペットボトルを開けてみたところ、一瞬、何かが見えた気がしたが、すぐに消えてしまった。動画の最後はこう結ばれている。

「何も入っていないわけが、ないじゃないか。しゃれが分かる方に、おすすめです」

(ライター・南文枝)

【参考URL】
雲海をすくい取る作業の動画
https://www.youtube.com/watch?v=pzD3KFSgLvI

「山城の郷」ホームページ
http://www.zentanbus.co.jp/yamajiro/