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地政学が解き明かす「「イスラム国」」拡大の理由

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地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

ロバート・D・カプラン著/奥山真司監修/櫻井祐子訳

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「国家」であることを自ら宣言して世界中から戦闘員を集め、勢力を拡大している過激派組織「イスラム国」。

 この動きをいち早く予測していたのが、アメリカのインテリジェンス企業「ストラトフォー」で地政学チーフアナリストを務めたロバート・D・カプランだ。ストラトフォー(ストラテジック・フォーカスティング)は「影のCIA」とも呼ばれていて、アメリカの国防・外交政策に大きな影響を与える世界トップの民間諜報機関である。

 彼は著書『地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図』(原題:The Revenge of Geography)で、シリアでスンニ派によるジハード(聖戦)が起こる可能性を断言した。

 その根拠として挙げたのが、シリアにおける「地政学リスク」の高さだ。地政学リスクとは、ある地域の地理的な条件や位置関係が、政治や国際関係に影響を与るリスクのこと。「イスラム国」による支配は、この地政学リスクの象徴的事件である。では、なぜシリアは地政学的にみて高リスク、つまり不安定な地域と言えるのだろうか。

■領土縮小というダメージ

 シリアは、広大な領土という歴史的遺産を失った屈辱を引きずっている。かつてのシリアは、ヨーロッパ、アジア、アフリカの文明が重なり合う「文明世界の歴史の縮図」だった。オスマン時代には現在のレバノン、ヨルダン、イスラエル・パレスチナを含む地域を支配するアラブ大国で、一時は最盛期のローマ帝国よりも広い領土を持っていた。それが現在の形にまで縮小されたという悲劇を、シリア人は痛烈に意識している。特に、1920年にフランスによってレバノンを切り離されたことは、大きなダメージだった。なぜなら、地中海への水路の多くが締め出され、豊かな資源を活性化させることができなくなったからだ。だからこそ、今でもレバノンを取り戻すことが彼らの悲願なのである。

■国家の発展を妨げたアサド政権

 カプランはシリアを、「イデオロギーと個人崇拝だけでつなぎ止められた、無秩序に広がる人為的な領土」と表現している。シリアは、宗派や民族が地域によって分断されている国家だ。たとえば、北西部のアレッポはクルド人やトルコ人、アラブ人やアルメニア人などが混在する人種のるつぼである一方で、首都ダマスカスは、スンニ派アラブ人ほぼ一色である。前大統領のハーフィズ・アサド(父アサド)は1971年に政権を掌握して以来、市民社会の建設に失敗し、国家の発展を大きく妨げた。父アサドが国民を無気力に向かわせたため、シリアは国家としてのアイデンティティが非常に脆弱なのである。

「イスラム国」をはじめとするスンニ派のジハード主義者は、シリアの現アラウィー派政権を「残虐的で世俗的で異端」な敵とみなしている。アラウィー派政権はシーア派のイランに近く、また1970年代と80年代に、数万人のスンニ派イスラム主義者を殺害したと、彼らは主張するからだ。

 しかしカプランは、「スンニ派ジハード主義者にシリアの平和を維持することはできない」と述べている。残忍さにおいてはアラウィー派と同等でも、アラウィー派が政権を担ってきた40年間で修得した、高度な統治能力は欠いていると指摘する。

「イスラム国」などの過激派組織のさらなる動きに、シリアや周辺地域はどう対応していくのだろうか。地政学は、刻一刻と変わる国際情勢を読み解くために欠かせない情報を私たちに示してくれる。


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