「世界一美しい射場」種子島で考えた惑星探査の未来(上) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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「世界一美しい射場」種子島で考えた惑星探査の未来(上)

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 2014年12月3日に宇宙へと旅立った宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」。「惑星探査入門」(朝日新聞出版)を出版した会津大の寺薗淳也准教授(惑星科学)は、実際に現地に赴き、打ち上げを見届けたという。分野によっては世界を引っ張るレベルにまで達しているように見える日本の月・惑星探査だが、政府が新しく策定している宇宙基本計画には懸念すべき点があると寺薗准教授は指摘している。

*  *  *
種子島宇宙センターは、「世界一美しい射場」として知られている。

 青い海、白い砂浜、茶色い岩の崖。色のコントラストが南国らしくはっきりした宇宙センターの風景は、一度訪れるととりこになってしまうことは間違いない。センター前の砂浜では泳ぐこともできるくらい、海がきれいなのである。

 JAXAホームページで眺める写真でもその美しさはうかがえるのだが、やはりその美しさを実感するためには、現地に赴くのがいちばんだ。

 鹿児島空港から36席の小型プロペラ機にまさに大きく揺られて種子島空港に降り立つと、南国の暖かい空気が出迎えてくれる。雪国・会津からやってきた私にとっては、コートがことさら重く感じられることになった。ただ、今回の滞在では後半一気に温度が下がり、そのコートが無駄にならなかったのはある意味残念なことであるが。

 今回の種子島訪問の目的は、なんといっても、「はやぶさ2」の打ち上げを見届けることである。

 空港から南下し宇宙センターがある南種子町へ向かう。すべてのお店の店先には「はやぶさ2」打ち上げ成功を祈るポスターが貼られ、道沿いにもロケット打ち上げ成功を祈る横断幕や看板が次々に目に飛び込んでくる。

 私自身は携わっていた仕事の関係もあり、ロケット打ち上げに直接立ち会うということはこれまでなかった。「はやぶさ」「かぐや」など、いろいろな探査機に関わってきて、はじめて打ち上げに立ち会うことになる。はやる気持ちと共に、打ち上げが成功するのかという不安感が、心の片隅からどうしてもぬぐえない。

 私自身は前身の「はやぶさ」には関わっていたが、「はやぶさ2」には直接は関わっていない。それでも、先代の精神を受け継ぎ、新たなチャレンジに挑む探査機の旅立ちはどうしても見届けたい、そんな思いが、私を種子島へと突き動かした。

 どういうわけかそういうときに限って、何かが起こる。そう。打ち上げの延期である。

 打ち上げ延期という、ここしばらくH-IIAロケットでは経験がなかった事態になるたびに、その不安が頭をよぎった。

 しかし、幸いにH-IIAロケットは12月3日、やや雲の多い種子島の空へと吸い込まれていった。私も、空に突き抜けていく轟音と火の玉を眺めながら、これから50億キロの行程に向かう探査機の無事を祈ったのである。

 今回打ち上げられた「はやぶさ2」は、先号機「はやぶさ」の基本的な構造やミッションを引き継ぎ、さらに先号機で発生した様々な事態にも対処できるように設計された、新しい探査機だ。
もともとは2006年頃から構想はあったのだが、予算の手当てなどがうまくいかず、一時は進捗も危ぶまれたことがあった。しかし、2010年6月13日、初号機「はやぶさ」の帰還がすべてを変えた。その帰還を感動の涙で迎えた私たち国民の声が、政府を動かしたのである。

 とはいってもそこからがまた一直線ではない。JAXA内でのプロジェクトの優先順位などの関係から、また予算が危ぶまれることになった。

 小惑星探査は、行きたいときにいつでもロケットを打ち上げればいいというものではない。相手の天体の軌道と地球の位置とを厳密に計った上で、その天体に行くまでの時間が最小になる、あるいはその天体に行くまでの燃料(エネルギー)が最小になるタイミングに合わせて打ち上げなければならない。「はやぶさ2」の打ち上げが秒単位で決められ、しかも延期のたびに少しずつ時間がずれていった理由には、こういった背景があった。

 今回、2014年冬期の機会を逃したら、次のチャンスは半年後になってしまう。しかも、そちらではより燃料が必要となる。最良のタイミングでの打ち上げに向けて、予算措置は何とか間に合い、プロジェクトチームの血のにじむような努力によって、ようやく私たちはこの打ち上げに一緒に臨むことができたのである。

 その「はやぶさ2」は、なんといっても、「行きたいところに行く」ということを実践した探査機であるということが言えるだろう。

「世界一美しい射場」種子島で考えた惑星探査の未来(中)へつづく

寺薗淳也(てらぞの・じゅんや)
1967年東京都生まれ。名古屋大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科(博士課程)中退。宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構(JAXA)広報部、(財)日本宇宙フォーラムを経て、現在、会津大学企画運営室および先端情報科学研究センター准教授。理学修士。専門は惑星科学(月や火星など、固体の表面を持つ天体の地質学や地震学)、情報科学(データベース科学、ネットワーク工学など)。
宇宙開発事業団では、月探査計画「セレーネ計画」(かぐや)の立ち上げに従事。JAXAでは「はやぶさ」の着陸のときにブログを通して世界中に情報を流した。現在は「月探査情報ステーション」(http://moonstation.jp)で月・惑星探査情報を発信中。雑誌『ニュートン』などに執筆した記事多数。著書に『はやぶさ君の冒険日誌』(毎日新聞社、共著)、『惑星探査入門――はやぶさ2にいたる道、そしてその先へ』(朝日新聞出版)など。

筆者の著書『惑星探査入門――はやぶさ2にいたる道、そしてその先へ』が発売中

【参考URL】
新・宇宙計画(素案)
http://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/genan.pdf


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