記念スイカを求めて東京駅に詰めかける人々(c)朝日新聞社 @@写禁
記念スイカを求めて東京駅に詰めかける人々(c)朝日新聞社 @@写禁

「客をなめるな!」

 年の瀬も迫った12月20日、駅開業100年という記念すべき日に、JR東京駅構内を怒号が響き渡った。この日発売の東京駅開業100周年Suica(スイカ)の販売が、急きょ中止されたのだ。既に、発売開始から2時間半が経過。予定した1万5千枚のうち、8090枚を売ったあとだった。記念スイカを買えた人と買えなかった人が出たことで、不公平感が騒ぎをより大きくした。

 販売された記念スイカの一部は「ヤフオク!」などのインターネット競売サイトで早速転売され、中には20万円で落札されたケースもあった。元値が2000円なので、実に100倍の高値で売れたことになる。

 これは極端な例であるが、ネットオークションの落札相場を調べられるサイト「オークファン」によれば、落札平均価格は1万4442円(22日15時現在)となっている。平均でも7倍近い高値だ。多くの限定品をネットオークションで転売してもうける「転売屋」にとっては、これほどの“優良銘柄”はないだろう。

 発売当日、東京駅に殺到した9000人以上の中で、どれだけの人が転売目的だったかは定かではない。だが、ネットオークションの状況をみる限り、JR東日本が禁止していた徹夜組に、多くの転売屋が紛れ込んでいた可能性は高い。なぜ、転売屋に記念スイカが狙われたのか。

 実は転売屋にとって、スイカは非常にオイシイ商品なのだ。記念スイカの販売価格は2000円。だが、その内訳は、500円の預かり金に加えて、1500円分がチャージされている。これは、通常のスイカを新しく購入した場合でも変わらない。スイカが使用済みでも、220円の手数料を払えば、チャージ金額と500円の預かり金の全額が払い戻せる仕組みとなっている。万が一、売れ残っても、転売屋の損失は1枚あたり220円。つまり、記念スイカは、購入金額の数倍で売れるうえ、売れなくても損が少ない”ローリスクハイリターン商品”なのだ。

 さらにもうひとつ、多くの人が東京駅に殺到した理由がある。それは、スイカが販売された場所だ。これまでもJR東日本は記念スイカを数多く発売してきた。だが、その販売場所は、記念物にちなむ駅や鉄道路線沿線の駅といった、都心部からのアクセスが悪い場所が少なくなかった。たとえば、2014年10月、群馬県を走る吾妻線でスイカの利用開始を記念する限定スイカが発売された。販売場所は、吾妻線の中之条や長野原草津口、万座・鹿沢口の各駅だった。JR新宿駅から中之条駅に向かうならば、3時間半ちかくもかかり、往復で5000円以上も交通費がかかってしまう。記念スイカにプレミアがつくとはいえ、往復の交通費はバカにならない。

 しかし、今回の販売場所は東京駅だ。都区内に住む転売屋は、時間もお金もほとんどかからず、気軽に買い出しに行ける。JR東日本は「見通しが甘かった」と釈明しているが、今回のような都心の駅で販売する時には、今回のように1人3枚まででなく、1人1枚の購入制限をつけるほか、インターネット販売に踏み切るなど、他にも方法はあるはずだ。

 JR東日本は22日、記念スイカを増刷して、希望者全員に販売する方針を打ち出したが、転売対策を含めた抜本的な販売方法の見直しを迫られている。

(ライター・河嶌太郎)