嫉妬という感情はやっかいなものだ。

 恋人が、別の異性と仲良く話しているのを見かけただけで、それが「どうってことはない」とわかっていても、心の隅で嫉妬が頭をもたげる。

 また、親しい友人や家族に対しても嫉妬することがある。たとえば会社の同僚が八面六臂の働きでプロジェクトを成功させ、社内中で評価が高まった時、素直に喜べない自分がいたり、自分より早く結婚を決めた弟や妹の幸せを喜べなかったり……。

 フランス文学者の海老坂武氏は著書『人生を正しく享受するために』の中で、嫉妬についてこう語っている。

「嫉妬は扱いにくい感情だ。嫉妬は醜い、おぞましい、愚かだ、滑稽だ。他人の嫉妬は見るのに辛く、悲しい。なるべく目を逸らしておきたい。しかし、自分の嫉妬となると、目をそむけるわけにはいかない」(同書より)

「嫉妬が厄介なのは、これを対象化して分析して、心の動きを突きとめることは難しくないのに、これを克服することができない、という点にある」(同書より)

 自身の嫉妬は目をそむけられないもの。また、それでいて克服ができない。まさに「やっかい」と形容するにふさわしい感情。そんな嫉妬にどう対応すればよいのか? 海老坂氏は一案として「嫉妬に身を任せる、嫉妬が荒れ狂うままにする」と語る。しかしそんな感情に身を任せたくない人には、「意識的な努力をしなければならない」と指摘する。例えば、「嫉妬は無駄」「役に立たない」「何も改善しない」「それどころか情勢が不利になる」と自分自身に言い聞かせることで、感情を抑えることができる人もいるのだという。

 一方、海老坂氏は本書の中で嫉妬の効用についても触れている。

「嫉妬していることをうまく表現できれば、こちら側の恋心が並々ならぬことを伝える手段となるかもしれない」(同書より)

 もちろん、嫉妬していることを、負の要素を極力省いて、うまく相手に伝えることは難しい。

「乱暴でなく、あてこすりでなく、相手の性格を理解した上で言葉を選ばねばならない。その表現の仕方は、自分で編み出す以外にはない。そうでないと、嫉妬の表現は修羅場と化しうる」(同書より)

 なお、同書は「嫉妬」を含め「孤独」、「性欲」、「不倫」、「嘘」、「旅」、「故郷」など全21個のテーマ別に海老坂氏が「人生を正しく享受する」術を綴っている。

 哲学者・三木清の『人生論ノート』をモデルに、「今の時代を生きる人間の観点からみた“人生論ノート”」として執筆したという同書。今を生きる上での、道標になる一冊である。