そこでアニメの絵では、キャラの魅力はどこにあるのかポイントを絞り、線の数をできるだけ減らしている。その結果、セーラームーンは、マンガとアニメでかなり印象の異なる絵柄になっているのだ。

 セーラームーンのような例は、その他の作品にも頻繁に見られる。マンガと印象が違うなと思ったときは、マンガとアニメの「線の数」に注目してみよう。

 原作マンガがある場合のキャラデザは、マンガの魅力を尊重しながらも、アニメとして成立する絵にフォーマットを変更するという、繊細かつ難しいかじ取りが求められるのだ。

 大塚監督は、キャラクターデザインがうまくいっている近年の作品として、『鬼滅の刃』『犬夜叉』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』『ハイキュー!!』を挙げた。

 いずれも多くの原作ファンを抱えているメジャー作品だが、原作マンガ家のクセがほどよく抜けて、誰もが見やすい絵にブラッシュアップされていると大塚監督はいう。

 アニメの素人からすると、「どこがどう変わっているの?」と感じる作品もあるが、マンガとの違いを意識してみると、アニメの楽しみ方の幅が広がりそうだ。

原作者のマンガ家と
「土壇場でのやり直し」でもめることも…

 ところで、原作者のマンガ家は、どの程度アニメ制作に関わっているのだろうか。

 大塚監督に聞くと、次のような答えが返ってきた。

「原作者と出版社のスタンス次第ですね。『アニメのことはプロにお任せ』というスタンスの人もいれば、キャラクターデザインやシナリオ、人によっては絵コンテまでチェックしたいという人もいます。原作者には『やり直し』をお願いする権限があり、アニメ制作者は原作者の意向を無視することはできないのです」

 ここで難しいのは、マンガ家が必ずしも、アニメ制作の全体像を把握しているわけではないことだ。かなり制作が進んだ段階で「やり直し」をお願いする原作者もおり、制作現場が混乱する場合もあるという。

「僕は経験ありませんが、キャラデザやシナリオの段階ではOKだったのに、いざ映像で見て、『これではダメ!』『デザインを変えて!』『声優を変えて!』などとなってしまう場合があるようです。すでに100人規模で作業を進めており、修正の利かないタイミングでそうなってしまうと、トラブルになります」

 原作者の意向で、放送3カ月前に、キャラデザからシナリオ、絵コンテまで全てが白紙になったという例もあるそうだ。その結果、そのアニメは放送が1年延期になってしまったという。

「とはいえ、こういったケースはほとんどなく、多くの現場では原作サイドと随時コンセンサス(共通理解)を得ながら作業を進めています。アニメの多くは原作があってこそ。僕は常に、原作ファンに楽しんでもらえるアニメを作りたい。原作の魅力を十分に理解してアニメ化をするのが、僕のようなエンターテインメント系のアニメ監督には求められていると思います。それができる監督ならば、おのずと原作者からも、『アニメのことはお任せ』と言ってもらえるはずです」

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プリキュアのようなオリジナルキャラはどうやって生まれる?