※写真はイメージ
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 徴用工問題で日韓関係が揺れる中、ふいに実現した韓国の自国造船支援をめぐるWTO協議。徴用工問題との時期の重複は造船界に思わぬ恩恵をもたらしている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

 11月29日、三菱重工業でも、第2次世界大戦中に強制労働させられたとする韓国人への損害賠償が韓国の最高裁判所によって命じられた。徴用工問題が勃発したのは、10月30日に同様の判決が下された新日鐵住金に続き、2社目である。

 そんな政情不安の真っただ中の11月6日、満を持して切られた“カード”がある。日本政府が、韓国による自国造船業に対する公的助成について、世界貿易機関(WTO)提訴の前段階となる2国間協議を要請したのだ。

 目下のところ、造船業界は船の供給過剰問題に頭を悩ませている。それを助長する公的助成を行う韓国に対し、日本政府は折々で公的助成の早期撤廃を求めてきた。

 しかし、韓国政府は「これらの措置は政府の介入によるものではない」の一点張り。業を煮やした日本政府がWTOの2国間協議に持ち込んだ、というわけだ。

 協議が決裂すればWTOに小委員会(裁判の第一審に相当)の設置を求め、1年半~2年かけて徹底抗戦していくことになる。

「ようやくここまでたどり着けた」。加藤泰彦・日本造船工業会会長は胸をなで下ろす。
 供給過剰問題をめぐる日韓の対立は根が深い。さかのぼれば、「正直者がばかを見る」を地でいったような日本の過去の造船政策に行き着く。実は日本の造船各社はかつて2度、国の指導の下で設備を縮小したことがある。第2次石油危機の前後とプラザ合意の後、市況が悪化したときのことだ。

 1990年代半ばまで30年強にわたって新造船市場の“主役”を務めた日本が、護送船団方式とはいえ世界の船舶の需給均衡のために身をていするのだから、意義ある政策だったことは間違いない。

 だが、造船新興国の韓国勢は強かだった。海上荷動き量の増加を見込み、90年代後半から大々的に設備を拡張。日本勢が「将来に禍根を残す」と苦言を呈しても聞く耳を持たず、一気に市場を席巻していった。

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実現したなら「結果オーライ」造船界は実質本位