西川社長は、今後の展開を読むには十分過ぎるほど、ゴーン氏の思考回路を理解していたことだろう。5年前と同じ経過をたどっているのだから、行き着く先はCEOたる自身の責任問題、ありていに言えばクビである。

 仏ルノー、日産、三菱自動車の3社のアライアンスCEOとなったゴーン氏の統治範囲は広がった。一方で、現場感覚の衰えも痛感していたことだろう。ゴーン氏は、意思決定を下す自分と現場との乖離を埋める仕組みとして、権力集中システムを築いていった。

 驚いたことに、ゴーン氏は日産のCEOでもないのに、「いつの間にか、西川社長以下執行役員53人全員の人事権と報酬決定権を握っていた」(日産幹部)という。

 厳密に言えば、別の代表取締役、つまり、ゴーン氏と共に逮捕されたグレッグ・ケリー氏の同意を得られれば、日産役員の進退を自由に決められる仕組みになっていた。

 これはもう、暴君の独裁としか言いようがない。

 実際におかしな幹部人事がまかり通っている。本来、業績低迷の責任を取るべきは、元凶となった北米担当をしていたホセ・ムニョスCPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)のはず。にもかかわらず、なぜか4月に、重要ポジションである中国担当へ横滑りしている。そこに、ゴーン氏の差配があったことは想像に難くない。

 ゴーン氏に刺されるくらいなら、先に刺そう──。ゴーン氏解任劇の発端は、不正の発覚から始まっているのかもしれない。だが、西川社長の思惑は別のところにあるのではないか。それは、この一大スキャンダルを利用することで、ゴーン氏やその背後にいるルノーから“当たり前の企業統治”を取り戻すことである。

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小粒になったECメンバー 再出発は前途多難