もっと取材を進めていくと、実はドコモのみならず、他の2社も、「0円端末」廃止に安堵している姿が浮き彫りになってきた。

 これまで、キャリア3社は端末代金を肩代わりすることで他社からの乗り換え客を獲得し、流出分の減少を補ってきた。今回のキャッシュバック撤廃により、端末価格がアップし、利用者はキャリア間の乗り換えを控えるようになった。3社横並びでの「0円端末」廃止は、販売促進費を投じて薄利を奪い合う戦いを終結させて、業界を健全化へと向かわせる効果があるのだ。

●MVNOの台頭で顧客争奪戦は第2ラウンドへ突入

 あるキャリア幹部は証言する。「株主対策として、建前では契約者獲得の追求を打ち出してはいる。だが、安倍首相発言よりも前から市場は成熟しており、無益な顧客争奪戦に終止符を打ちたかった」。

 あるソフトバンク関係者も、「0円端末の廃止による販売数量減はあまり気にしていない。経営に与える影響は軽微だ」と言う。キャリア3社の関心は共に、むやみに契約者獲得を追求することではなく、囲い込んだ契約者のアープ(1人当たりの平均売上高)を上げることにシフトしている。

 もっとも、これでキャリアによる囲い込み態勢が盤石になったかというと、話はそう単純ではない。

 確かに、キャリア間の移動は減ったのだが、代わりにMVNO(仮想移動体通信事業者)の台頭が無視できなくなってきたからだ。

 総務省が3月16日に公表した「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、それまで毎月50万件前後で推移していたMVNO契約者の純増数は、昨年後半から急増し、12月時点で87万件、総契約数は1155万件に達している。

 今夏にも、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手のLINEがMVNO事業へ参入する方針を表明しており、これまで30~40代の男性が中心だったMVNO契約者の裾野が、若年層や女性へ広がることは明白だ。

 今後、キャリア3社とMVNO事業者との間で激しい競争が繰り広げられることは間違いない。「0円端末」廃止でホッとしたのもつかの間、キャリア3社に新たな敵が襲い掛かってきているのだ。

 価格面では不利な立場にあるキャリアは、いかに付加価値を生み出し顧客をつなぎ留めることができるのか。顧客争奪戦の第2ラウンドは始まったばかりだ。