7-8と逆転された後、27分過ぎに取ったトライも同様の驚きがあった。トライを決めたのは初出場の藤田慶和。モールという密集戦の中にいて、相手の隙を衝いてトライしたのだが藤田はBK、それもスピードを武器に突破を図る役割のウイングの選手だ。そのBKが躊躇なく押し合いへし合いのモールに参加して、トライをとったのだ。

 日本のラグビーは長年、FWとBKの役割分担がはっきりと分かれていた。FWは体格とパワーを武器に相手FWと肉弾戦をしてボールを獲得する役割、BKは獲得したボールをパスやキック、走力で大きく展開して突破を図る役割だ。もちろん状況によってはFWがボールを持って走ったりパスすることはあったし、BKが密集戦に参加することもあったが、専門外のプレーであり、そう多くは見られなかった。そもそも日本のチームはFWとBKは別々に練習することが多く、FWがBKの、BKがFWのスキルを身につける機会が少なかったのだ。

●W杯スタートとともにぶつかった壁 わずか3年半で乗り越えたエディー・ジャパン

 ところがW杯が始まり、ラグビー先進国と試合をするようになると、そうした日本のラグビースタイルは壁にぶつかる。海外の強豪にしてもFW=ボールの獲得、BK=展開・突破という大まかな役割分担はあるものの試合ではポジションに関係なく、どの選手もラグビーに必要なすべてのスキルを持ち、プレーして見せる。しかもひとりひとりが、どのプレーを選択すべきかの判断力を持っているわけだ。

「この差は埋めようがないほど大きい」

 日本のラグビー界が、この壁に気づいた20年ほど前、日本代表の指導者から、こんな言葉を聞いた。

「日本ではポジションごとの専門のスキルを磨いてきましたが、世界にはそれでは太刀打ちできません。FWも状況に応じて走れて、パスして、キックも蹴れる、BKも密集戦ができる。なんでもできるゼネラルスキルを身につける必要があるんですが、これが難しい。そこまで行くのに10年、20年、もっとかかるかもしれません」

 前回まで低迷していたのも、この弱点を克服できなかったからではないか。しかし、エディー・ジョーンズはそれまでの蓄積はあるにせよ、わずか3年半で日本代表をそのレベルまで引き上げたのだ。見事というしかない。

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