(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net
(C)nakata.net

 これまで全国各地の窯元を訪ねてきた。いろいろなロクロやその他の手法で器や皿を作ったりもした。しかしどうしてもこれまで見られなかったことがある。それが実際に薪を使った、登り窯や穴窯での「焼成」だ。最近は、温度管理がしやすく、仕上がりも安定する電気やガスの窯を使う陶芸家も多いが、やはり陶芸の醍醐味は、数日間かけて薪で焼き上げる焼成だ。ただ登り窯などの火入れは、多いところでも年に1、2回。なかなか僕が訪ねるタイミングと合わなかったのだが、「Revalue NIPPON」の旅、5年目にしてようやくそのチャンスが訪れた。

「登り窯はとにかく大変ですし、製品の歩留まりも悪い。薪の炎の動きは調整できませんから、焼きすぎたり、温度不足だったり、灰をかぶったり。思ったように仕上がるのは、多くても6割程度です。それでも登り窯で焼くのは、その思いがけない炎の動きならではの個性や表情のある作品が出来上がるから。釉薬(ゆうやく)の色も電気やガスの窯より、深みのあるものに仕上がります」

 秋田県大仙市の「楢岡陶苑」は、江戸時代末から伝わる楢岡焼の伝統を守る窯元。6代目の小松潮さんは、京都でコンピューター関連の仕事をした後、陶芸の勉強をし、父の跡を継ぐために地元に戻ってきたそうだ。

「うちの登り窯は、1992年に島根の石見の職人さんが作ったもので、もう20年以上使っています。窯焼きは、薪をくべつづけて温度を維持することが重要ですが、実は作品の仕上がりに影響するのは、どの作品をどこに置くかという“窯入れ”の作業。窯の室内は、炎の通り道があり、場所によって温度差もあります。作品をどう仕上げたいかというイメージによって、置き場を変えなければならない。この辺りは、経験でしか学べないし、何度やっても完璧に把握するのは難しいですね」

 僕が訪ねたときは、火入れの序盤。窯の温度を上げる「焙り(あぶり)」の作業中。隣室で5代目の父・哲郎さんが薪を割り、それを2人のアシスタントとともに潮さんが窯の正面から投入する。温度計や内部の温度を測るための「ゼーゲルコーン」という道具もあるが、一番頼りになるのは、過去のデータと経験からくる勘だ。

「温度の上がり具合を見ながら、20分に1回くらいのタイミングで薪をくべます。今ちょうど丸1日くらい続けて、ちょうど1000℃くらい。1100℃くらいまで上がったら、今度は薪を各室の横から投入して、室の温度を1200℃くらいまで上げていきます」

 薪として使うには、脂を多く含む松がいいそうだ。

「松は温度が上がりやすく長持ちするのですが、なかなか手に入らず、値段も高い。そこで最初は杉などを燃やして温度を上げ、松は後半に投入するようにしています」

 薪の投入を手伝わせてもらったが、とにかく大変なのが窯の口から噴き出してくる熱気。長さ1メートル強、重さ4?5キロの薪を下手投げで投入するのだが、温度が上がりづらい隅の方など、狙った場所に的確に薪を投げ入れようとすると、窯の近くまで寄らなければならない。思い切って踏み込む必要があるのだが、まるでそこに熱の壁があるように感じられる。

 窯焼きで使われる薪の量は、なんと約5トン。それだけの量を運び、熱さをこらえて窯に投げ入れる。丸2日間以上、この作業を続けるのは、体力的にも相当にキツいだろう。

 階段状に作られている登り窯は、一番下が燃焼室で、その上が「一番窯」、次が「二番窯」と続く。楢岡陶苑の登り窯は、四番窯まであり、最大3000点近くを一度に焼くことができるそうだ。

「今回焼いているのは1800点ほどなので、焼く時間はいつもより少し短めの50時間くらいになりそうです。その間は、みんなで交代しながら寝ずの番。火を落としてから3日間冷まして、ようやく窯から出すことができます」

 僕が滞在したのは、約2時間。しかしこのあとも、徹夜での窯焼きが続いた。潮さんから「無事、窯焼きが終了しました」というメールが届いたのは、約1日半後。僕が見たあの炎がどんな焼き物を作り上げたのか、また見に行きたい。そして次はできればゆっくりと滞在して、窯入れから窯出しまで、窯焼きのすべてを体験したくなった。