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ひとりカラオケ、930円。

文・内藤みか

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 最近、周囲の人が「ひとカラ」を楽しんでいる。ひとカラとは、ひとりカラオケのこと。最初それが流行していると聞いた時は、耳を疑った。

 私は20年前に、東京と山梨とで、カラオケボックスの店員をしていたことがある。それぞれ1ヶ月のバイト期間の間、ひとりの来店者は東京では2人、山梨ではゼロだったのだ。ひとカラする人は当時はほとんどいなかった。

 でも、周囲のイケメン達が、よくひとカラに行くと言う。ちなみに彼らがなぜひとカラするかというと「自分たちより歌がうまい男がいるから、人前ではあまり歌いたくない。でも歌が好きだから歌いたい」とのことだった。楽しく歌えればそれでいいと思うのに、彼らは妙に勝ち負けにこだわっていた。ひとりで歌うだなんて、さみしくはないのか、ずっと私は気になっていた。

 そしてそのチャンスは不意に訪れた。子どもらが2人とも模試に行った日曜日、私はぽっかり空いた3時間を埋めるために勇気を出して「ひとりなんですけど」とカラオケ店に入った。特に怪しまれずに案内してもらえたが、私の部屋は最もレジに近く、店員さんから室内が丸見えだった。ここでひとりでシャウトするのはちょっとムリ。小心者の私は部屋を替えてもらうという情けない行動をとった。今度は最も奥まった居心地のいい場所で安心した。店員さんが少し悪いと思ったのかポテトチップスをサービスしてくれた。

 まず普段はなかなか歌えないメドレー曲を私は入れた。メドレーは長いので聴いてる人もいやだろうといつもは避けているから、さあこの機会に、と流れてきた松田聖子ソングに口を開く。

 しかし、声帯が萎縮でもしているのか、思うように声が出ない。こんなに自分は小心者だったのかと冷や汗が出た。何曲歌っても誰からも拍手は起きず、曲が終わると室内にはしいんと静寂が訪れる。ツイッターに黙々と「これから岡村孝子メドレーです」と曲目を打ち込まなくてはやっていられないくらい私は落ち着けなかった。


 3曲目くらいからようやく声は出て楽しくなったけれど、観客がいないので、ずっとモニタばかり見ていて妙な気分だった。結局1.5時間で室料とドリンクで930円払って出てきたけれど、ああ、やっぱり私は誰かと一緒に歌いたい!


(更新 2010/10/21 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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